第101章

松本直人の泣きそうな顔を見て、高橋隆一の拳は振り上げられなかった。

数言のやり取りの後、高橋春香が急いで駆け寄ってきた。彼女は兄の険しい顔を見て、三人の間に何があったのか分からず、ただ雰囲気が妙に感じられた。

「お兄ちゃん、来たの?」

高橋春香は高橋隆一にだけ挨拶をした。彼女はその「義姉」と呼ばれる人には挨拶したくなかった。

高橋隆一は「うん」とだけ答え、少し不満そうに言った。

「義姉さんもいるのに、どうして挨拶しないんだ?」

高橋春香は焦って心の中の言葉が出そうになった。「そんなの…」

しぶしぶと口から出たのは、「義姉さん」だけだった。

高橋隆一の険しい顔が少し緩んだ。

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