第108章

渡辺美代はその夜、藤原麻衣に庭園まで送られた。数時間休んだ後は大丈夫になり、自分で歩けるはずだったが、藤原麻衣が心配で送り届けると言い張ったのだ。

帰宅して高橋隆一と向き合うことになると思い、どう説明しようかと考えていた。しかし、その夜、高橋隆一は帰ってこなかった。

月曜日、会社に着くとすぐに中村政からの内線を受けた。

「奥さ……渡辺美代さん、社長室までお越しいただけますか。業務の件です」

渡辺美代はバッグを置き、パソコンを開く間もなく上の階へ向かった。

高橋隆一は革張りの椅子に寄りかかり、ボールペンを手に回しながら、機嫌が悪そうに見えた。

「高橋社長、何かご用件でしょうか?」

...