第163章

渡辺美代は車から降りて真っ直ぐにスーツケースを引いて歩き出した。彼女の後ろでベントレーが彼女が降りた後に車線変更したことには気づかなかった。

日中は人の流れが絶えない病院も今は静かになっていた。満月の夜で、空には丸い月が掛かり、星がまばらに散りばめられていた。

渡辺美代はかつて、人は一生ずっと不運が続くことはないと思っていた。母を失い、祖母を失い、実の父に捨てられた後、最も孤独で無力な時に好きな人と結婚した。一時は自分に家族ができ、これからの人生は満たされたものになると感じていた。

しかし現実は容赦なく彼女を打ちのめした。

思考を切り替え、渡辺美代はおじいさんの病室に...