第1章 あなたは結局彼女ではない

深夜、別荘にて。

男の熱烈なキスは急迫で、女性はソファに押し付けられ、それを受け入れざるを得なかった。

バスタオルが引き剥がされ、美しい裸体が佐藤悟の目の前に晒され、彼の声はさらに掠れた。「希……いいか？」

山本希は唇を噛み、この愚問に答えたくもなく、男の頭を自分の胸元に埋めることで応えた。

佐藤悟の唇は下へと移動し、彼女の両脚の間へと辿り着いた。

硬くなった先端が濡れた入り口に当てられたその時、突然携帯の着信音が鳴り響いた。

番号を確認すると、佐藤悟は動きを止めた。

山本希は不満げに腰をくねらせた。こんな時に邪魔されて気分がいい人などいない。佐藤悟の驚くほど大きなちんこに触れながら、何気なく尋ねた。

「いつ着信音変えたの？」

次の瞬間、男は彼女の体から離れ、ちらりと彼女を見て言った。

「静かにして」

そして電話に出て外へ向かった。

「俺だ、どうした？」

山本希は一瞬固まった。空気が冷たさを帯びていた。

佐藤悟はいったい誰からの電話を受けたのだろう？

あんなに優しい声色は、仕事の話とは思えない。

彼女はそれ以上気にしなかったが、その夜を境に、佐藤悟はまるで別人になったかのようだった。

結婚後の彼は何事にも行き届いていた。

彼女がパクチーを食べないと知ると、わざわざ取り除いてくれたし、彼女が熱を出せば、薬を買って来て飲ませ、一晩中看病してくれた。

成熟して理性的で、これ以上ない家庭を重んじる男性だった。

しかし、あの電話を受けてから、佐藤悟は彼女と距離を置き始めた。

帰宅できるなら帰らず、家にいても客間で寝るようになった。

冷淡で疎遠になり、彼女が少し触れようとすると眉を顰め、まるで純潔を汚されたかのような反応をした。

あれほど親密なことまでしたのに、今さら何を演じているのだろう？

山本希はついに彼の冷たさに耐えられなくなり、面と向かって問い詰めた。

佐藤悟は眉一つ動かさず、ただ言った。

「すまない、結局お前は彼女じゃなかった」

山本希はそこで初めて知った。佐藤悟が彼女と結婚したのは、彼の「高嶺の花」だった初恋の人に三分ほど似ていたからだということを。

「離婚したいの？」

夫婦は向かい合って座り、山本希がそう言った後、黙って夫を見つめた。

佐藤悟は弁護士が下書きした離婚協議書を差し出し、冷たい声で言った。

「見てくれ、問題なければすぐにサインして手続きを」

彼はいつもこうだった。

結婚を決めた時もこうだったし、今離婚する時もこうだった。

山本希は微笑み、何でもないかのような声で言った。

「随分突然ね？」

佐藤悟は「ああ」と答え、もう少し正確に伝えるべきだと思ったのか、付け加えた。

「絵里が戻って来たんだ」

山本希の顔から笑みが消え、離婚協議書に視線を落とした。

渡辺絵里、それが佐藤悟の高嶺の花だった初恋の人だった。

彼女は離婚協議書をテーブルに投げ捨てた。

佐藤悟は話がスムーズに進まないことを予想していた。深いため息をついて言った。

「円満に別れよう」

言い終わる前に、山本希のきっぱりとした「いいわ」という返事が聞こえた。

佐藤悟は言葉を詰まらせた。

対面の妻が唇を歪めて微笑むのを見た。

「ただ、離婚の補償についてはもう少し話し合う必要があるわね」

彼女があまりにも簡単に同意したことに、まるで自分のことなど全く気にかけていなかったかのように。

そのことに気づいた途端、佐藤悟の胸中には言いようのない感情が湧き上がった。

彼は大らかに言った。

「かまわない」

山本希はゆっくりと落ち着いた声で言った。

「婚姻期間中の夫婦の全ての収入は夫婦共同財産よ。私たちは二年間結婚していたから、あなたの収入の半分が欲しい。もちろん、私の半分もあなたに分けるわ」

佐藤悟は呆れて笑い、長い指でテーブルを叩いた。

声はますます冷たくなった。

「それがどれほど大きな財産か分かっているのか？たとえ分けてやったとしても、お前に守れるのか？」

彼が山本希を見る目は、まるで欲深い俗物を見るようだった。

山本希はサインペンを弄びながら、鋭い視線で佐藤悟を見つめた。

佐藤悟はその視線に耐えられず顔を背け、この半年間の彼女への所業を思い出し、急に罪悪感を覚えた。

彼は口調を和らげた。

「ゆっくり話そう。俺が絶対に受け入れられない条件を出す必要はない」

「多すぎると思うの？」山本希は問い返した。

佐藤悟は何も言わなかったが、その目の中の意味ははっきりと伝わってきた。

多いか少ないか、自分でわからないのか？

山本希は気にせず、自分にお茶を注ぎ、考えてから向かいの人にも注いだ。

佐藤悟はこれが折れる兆候だと思い、手を伸ばしてティーカップを取り、唇に運んだ。

そこで山本希の声が聞こえた。

「もし自分で決められないなら、実家に行って年寄りたちと話し合うこともできるわ」

年寄りたちとは、もちろん佐藤悟の家族の年配者たちのことだ。

佐藤悟は何口かむせ、重々しくティーカップをテーブルに叩きつけ、まるで怒りを爆発させようとする獅子のように、顔に嵐の前兆を浮かべた。

「脅しているのか？」

山本希はまったく怯えず、「とんでもない」と言った。

その様子は明らかに「とんでもなくない」と言っていた。

山本希は自分の服に飛んだお茶を拭き取った。

「私は当然の権利を求めているだけよ。もし払えないなら、四割でもいいわ」

佐藤悟はこの女性を初めて知ったような気がした。以前の従順な姿は全て演技で、いったん利益が絡むと、全てが露呈した。

しかし、彼は家族に真相を知られたくなかった。

彼らがどれほど山本希を好いているか、佐藤悟は十分承知していた。

長い沈黙の後、彼は言った。

「わかった」

山本希は緊張していた体がこの言葉と共に緩んだ。

二言とも言わず離婚協議書にサインした。

佐藤悟は冷たい表情で山本希に警告した。

「言った通りにするが、他に何も起こさないことだ」

山本希は椅子に座り、真剣に尋ねた。

「脅しているの？」

佐藤悟は山本希のこんな様子を見たことがなかった。結婚してこれほど長い間、彼女はいつも従順で素直だった。今のように彼に対抗するようなことはなかった。

彼は一瞬躊躇し、冷淡な声で言った。

「お前の求めるものは全て与える。三日後に離婚だ」

佐藤悟の忍耐は尽きかけていた。

しかし山本希は遠慮なく言った。

「最後にもう一つお願いがあるわ」

佐藤悟が反論する前に、彼女は言った。

「明日、買い物に行くから付き合って。あなたからの離婚プレゼントだと思って」

「買い物が楽しめたら、実家に帰りましょう。離婚のことは説明しないといけないから。理由を聞かれたら、好きじゃなくなったと言うわ」

彼女は離婚の責任を自ら引き受けた。

佐藤悟は数秒間黙った後、結局拒否しなかった。

「いいだろう、明日会おう」

全てが話し合われ、彼は立ち上がって去ろうとした。

離婚の件が長引くと思っていたが、今になって彼は理解した。山本希は早く離婚して彼の財産を分けてもらいたいのだと。

山本希がもし佐藤悟のこの考えを知ったら、冷笑するだけだろう。誰があなたのわずかな財産なんて気にするものか。

山本希は彼が出て行く前に呼び止めた。

「こんな時間、誰に会いに行くの？あなたの初恋？」

佐藤悟は眉を上げた。

「お前には関係ない」

山本希は腕を組み、率直に裏切られることが嫌いだと言った。佐藤悟がどれほど渡辺絵里を好きでも、正式に離婚するまでは彼が渡辺絵里とベッドを共にすることを許さないと。

佐藤悟の表情が曇り、戻って山本希の前に立った。

山本希は彼の低気圧に影響されず、挑発した。

「そんなに急いでるの？二年も待ったのに、あと数日も待てない？」

佐藤悟は怒らず、山本希の恨みを理解すると表明した。

山本希は言葉を失った。

佐藤悟は「早く休め」と言って去っていった。

ドアが閉まった後、離婚協議書は静かにテーブルに置かれたまま、山本希はそこに立ち、長い間動かなかった。

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