第5章

古城裕司は悪戯っぽく笑って、子供たちが予想外の展開に動揺しているのを見て満足げに口を開いた。「君たちは、グループの経営が計画書を何枚か書くような子供の遊びだと思っているのかな？」

そう言うと表情を引き締め、古城美雪に視線を向けた。

父親が真剣な話をし始めるとわかり、古城美雪は気持ちを引き締めて、じっと耳を傾けた。

「娘よ、君が経営に携わりたいというなら、父さんは頑固な人間じゃないから止めはしない。商売人は利を重んじる。そういう建前ばかりでは商売の世界では通用しない。だが、大役を担うのはそう簡単ではない。他の者はともかく、君の兄でさえ、一年かけてようやく今の地位を固めたんだからな」

「公平を期すために、まずはA市のTZホテルを任せよう。半年以内にあのホテルを赤字から黒字に転換できれば、君に兄の仕事を任せることも考えよう」

妹を溺愛する息子たちが口を開く前に、彼はさらに付け加えた。「もちろん、その間は家の人脈や資金を自由に使っていい。長男が得られる助けは、君にも与えられる」

言い終えると古城裕司は手を振って兄妹たちを書斎から追い出した。心配の種である子供たちの顔を見たくなかった。

書斎を出ると、古城家の長男である古城蓮はすぐに自室に戻って牧師服に着替え、古城美雪に言い聞かせた。「父さんに俺のこの服を脱がせるチャンスを与えるなよ」

古城律はため息をついた。「兄さんは本当に美雪を信頼してるんだね」

「お父さんが私にこの厄介な仕事を任せたけど、私は本来、強い相手ほど燃えるタイプ。尻込みさせようとしてるなら、それは見当違いよ」古城美雪は血が沸き立ち、三年間眠っていた野心が胸の内で目覚めていた。

二人の兄は顔を見合わせて笑い、古城律に至っては古城美雪の両肩に手を置いた。「いい妹だ。兄貴は全てを賭けてるぞ。俺たちを失望させるなよ。何か必要なものがあれば、遠慮なく言え」

「いらないわ。お父さんが古城家の資源を自由に使っていいって言ったのは、わざと罠を仕掛けてるのよ。もし私が予想以上の資源を動かしたら、すぐに継承者リストから外されるわ」

「ひっ、なんて狡猾な」古城律は舌打ちした。

一方、古城蓮は冷静な表情を崩さなかった。「ビジネスの世界もそういうものさ。利益と危機は共存している。そのバランスを見極めることこそ、すべての商人が身につけるべき技術だ」

この時、古城家では兄弟姉妹の絆が深まり、誰もが明るい未来を見据えていた。

しかし、古城美雪の元夫である北島神人の気分はあまり良くなかった。

古城美雪と再会してから五日が経っていた。北島神人は朝の会議を終えて疲れを隠せず、少し息をついてから秘書の秋谷健太を呼んだ。

「奥さんの行方について何か分かったか？」

秋谷健太は眉をひそめ、心もとない様子で答えた。「社長、まだ何も。奥さんがかつて行ったことのある場所や行きそうな場所をすべて調べました。故郷のY市にも人を派遣しました」

彼は北島神人の表情を窺いながら、慎重に続けた。「しかし、奥さんが登録していた住所はすでに再開発で取り壊されていました。周辺住民から話を聞いたところ、当時その周辺の数ブロックには北島という姓の家族は住んでいなかったそうです」

北島神人は突然顔を上げた。「何だって？」

秋谷健太は唾を飲み込んだ。今の社長の表情は恐ろしいほど険しかった。取締役会に詰め寄られた時でさえ、こんな表情はしなかった。それでも正直に答えた。「本当です。あの地域はもともと村だったので、親戚関係が多く、北島は地元の主要な姓ではありませんでした。地元の人々はそういった単独の家系をはっきり覚えていて、北島という姓の家族はいなかったと言っています」

少し間を置いて、さらに付け加えた。「私も信じられなかったので、コネを使って地元の警察署で戸籍を調べてもらいましたが、該当者はいませんでした」

これで北島神人は座っていられなくなり、立ち上がった。何かを思い出したように尋ねた。「では、古城律はどうだ？古城家の長男の古城蓮は？数日前、北島美雪が古城家の人間と関わっていたのに、それは調べなかったのか？」

「北島社長、当社とTZグループの関係はそこまで親密ではありませんし、相手が誰かの素性を隠そうとしているなら、私たちが手がかりを見つけるのは難しいでしょう」

北島神人の鋭い視線の下、秘書の声はどんどん弱くなっていった。

あの夜、古城律が北島美雪のために立ち上がった光景は印象的だった。二人が単なる友人だとは北島神人にはとても信じられなかった。

しかし、二人の間に男女の情があるとは考えたくなかった。そんな可能性を考えるだけで、北島神人は爆竹でも食べたかのように苛立ちを覚えた。

胸がもやもやしていると、ノックの音が思考を中断させた。

「北島社長、金崎さんという方がお会いしたいとロビーでお待ちです。予約がないため一階で止められていますが、お通ししましょうか？」担当の女性社員が入ってきて尋ねた。

恵が今ロビーにいる？北島神人は眉をひそめたが、それでも頷いて彼女を上げるよう指示した。

秋谷健太は鋭い観察眼を持っており、北島社長の気分が金崎さんの到来によって良くなるどころか、むしろ悪くなっているように見えた。彼は若奥様がまだ北島社長のそばにいた頃を懐かしく思い出した。

おそらく北島社長自身も気づいていないだろうが、口では若奥様に対する感情はないと言いながらも、彼女と一緒にいる時はいつも全体的にリラックスしているように見えた。

北島神人は秋谷健太の考えを知る由もなかった。彼はただ考え込んでいた。北島美雪との協議書にはすでに署名したが、手続きはすぐには完了しない。結婚は公になっていたため、離婚の際も世論への配慮が必要だった。そんな時に金崎恵が堂々と会社を訪ねてくれば、すぐに噂が広まるだろう。彼はそういった噂を恐れてはいなかったが、不必要な混乱は恵に対する北島家の評価を下げることになる。それは彼が望まないことだった。

結局これはプライベートな問題なので、北島神人は秋谷健太に残りの仕事を指示してから退出するよう言った。

秋谷健太は入室してくる金崎恵とすれ違いざま、こっそりスマホを取り出し、社員グループに一言送信した。

アルバイトの田中：若奥様の座を奪おうとする人を見かけた。