


第5章
藤原菁が来ると、静かだった病室は騒がしくなり、水原恵子は眉をひそめた。明らかに、祖父が病気になってからずっと無関心だった彼らが、今になって祖父の遺産を争いに来たのだ。
「お父さんはもう最期なんだ。静かに見送らせてやれないのか?」伯父の声には怒りが含まれていた。
その時、藤原菁は泣き声を引っ込め、すぐに威圧的な態度で言った。
「兄貴、お父さんがもうダメなら、お父さんの遺産のことをはっきりさせておくべきじゃないの?」
「父はまだ生きているんだぞ。それ後のことだ」伯父は実直な人で、強引さでは鈴木健一と藤原菁の相手になるはずもなかった。
そのとき、水原恵子のクズ男の父親が口を開いた。
「兄貴、そのお金を独り占めするわけにはいかないだろう。父さんには俺たち二人の息子がいるんだから」
「お前...」伯父は怒りで水原健一を指さしながら、顔色が青ざめた。
伯母はすぐに伯父を支え、心配そうに尋ねた。
「心臓の発作じゃないの?」
「そうよ、おじいちゃんのお金には私たちの分もあるのよ!」藤原琳も加勢した。
伯母は伯父を椅子に座らせると、振り向いて水原健一たちを責め立てた。
「健一、今さら父のお金を争う面の皮があるの?父が病気になってこれだけの年月、お前はどこにいたの?彼女たちはまだしも、お前は父の実の息子でしょう。病気の時に一度も見舞いにも来なかったなんて、よくもこういうこと言ったな?」
水原健一は自分が悪いと分かっていたので、一瞬言葉に詰まった。
しかし藤原菁は横から火に油を注いだ。
「義姉、兄貴ともっと多く分けてほしいなら、私たちは少し譲ってもいいわよ。自分を高尚に見せる必要なんてないじゃない。あなたたちがお父さんの世話をしたのだって、退職金目当てじゃないの?」
伯母は怒りで顔が青ざめ、藤原菁を指さして言った。
「あなたが私たちの家に入ってから、平穏な日なんてなかったわ。まさに疫病神の来訪ね!」
「誰が疫病神だって?」藤原菁は威勢よく前に出た。
「他の誰のことを言ってると思うの?」伯母は藤原菁を見下すような態度を取った。
「あなたはずっと私を目の敵にしてきたわね。簡単に負けると思うな。今日はとことんやり合いましょう。私はあなたを恐れないわよ!」藤原菁は罵りながら前に出て、伯母と取っ組み合いを始めた。
伯母は年齢的に不利で、数ラウンドの後には劣勢になった。
「やめろ!」伯父は椅子に座ったまま動けず、水原健一は伯母と藤原菁の周りをうろうろしていた。
「ママ、しっかり懲らしめて!今後二度と私たちを見下せないようにしてやって!」藤原琳は横から煽り立てていた。
すぐに藤原菁は伯母の髪をつかみ、伯母の顔を二回も強く殴った。
水原恵子はその状況を見て、このまま止めなければ伯母が大きなケガをすると悟った。
そこで次の瞬間、水原恵子は前に出て藤原菁を引き離した。
やっと解放された伯母は、すかさず藤原菁に平手打ちを返した!
殴られた藤原菁は気勢を削がれ、すぐに怒鳴った。
「水原恵子、よくも手を出したわね!」
藤原菁は前に出て水原恵子を突き飛ばし、水原恵子はよろめいて病床の手すりにぶつかり、痛みで冷や汗が出た。
「水原健一、あんた死人なの?自分の妻が虐められてるのに手も出さないなんて、男のくせに情けないわね!」藤原菁は振り返って水原健一に怒鳴った。