章 848

急いでいる顔で携帯も持たずに出かけた。

二十分ほど待って、やっと妻から電話がかかってきた。

通話が繋がった瞬間、妻の方から荒い息遣いが聞こえてきた。その呼吸は激しく、彼女が必死に抑えようとしていても、私にはハッキリと聞き取れた。

私の表情が曇った。何年も連れ添った夫婦だ。彼女のこの息遣いは余りにも馴染み深い。まさに彼女が興奮している時に出す独特の息遣いだった。

妻の勤める教師棟はたった九階建てで、エレベーターもある。それに教師なら普段は教室か事務室にいるはずだ。妻が勤務中に、どんな状況でこのような特徴的な息遣いをするのか、私には想像できなかった。

「あなた、さっき電話くれたけど何かあったの?」...