章 540

ようやく秦悦と一夜を共にし、前からの願いが叶ったとも言える。

服を着て、林川はベッドの端に座りタバコに火をつけた。秦悦が十分離れてから自分も出るつもりだ。昨夜から今まで、一言も話せなかったことが、林川をひどく苦しめていた。情熱的な時でさえ、叫びたくても叫べない。聾唖者という身分がバレてしまうからだ。

林川がホテルを出たのは、夜の十時過ぎだった。

満足感を抱きながら、フロントにカードキーを返すと、あのフロントの従業員は林川を奇妙な目で見ていた。よく考えてみれば、昨夜秦悦が立てた物音があまりにも大きく、外を通る人に聞こえてしまったのだろう。

それに顔につけていたピエロのマスクも、人目を引か...