章 1055

「よし、柵を跨いで助けに行くぞ」

そう思い、足を伸ばして柵を越えようとした瞬間だった。

「若いの、何するつもり?」

横にいた中年女性が私の腕を引いた。

「助けようと思ってるんですけど」

「若いの、冷静になって。助けようという気持ちは立派だけど、もし彼があなたにたかってきたらどうするの?もし死んでしまったら、あなたが関わったことで面倒なことになるわよ。余計な水を掻き回さない方がいいわ」

「でも彼は私がぶつけたわけじゃないですよ。自転車にひかれたんです」

「若いの、田舎から出てきたばかりなの?」

中年女性は私を一瞥した。

「今は人の心も荒んでるのよ。物事はあなたが想像するほど単純じゃない。余計なこ...