


章 1
ミアシェリーズのバックライト付きの鏡は、ちっとも私を綺麗に見せてくれない。まるでドブネズミみたい!
何週間も前から準備してたのに、カーディガンの袖はなんだか少し長い気がする。つけたヘアバンドも、ウェーブのかかった髪をまとめるのに全然役立ってない。チャックテイラーの偽物なんて、こんな場所で大丈夫なのかな?
それでも……もしかしたらオリヴァーがこの努力に気づいてくれるかもしれない。
そういえば、彼、私のメッセージ見てくれたかな? もう九時四十三分だ。時間通りに食事を済ませて出れば、新年の花火大会に間に合うはずなのに……。
「こっち着くの楽しみにしてるよ」――三十分前、未読のまま。
ぎゅっと目をつぶる。アイライナーの引き方、一生懸命練習したんだから、崩したくないんだけど……。
「落ち着いて、シンシア……。あと……たった二分だけ」
もうメッセージのリマインダーアラームもセットしてある。彼に催促の嵐を送る必要なんてない。
大丈夫。あとたった二分。
化粧室のドアを開けようとした、その時――
「行かないでっ!!」
――危うくドアで自分の顔を打つところだった。
こんな場所で、誰があんな風に叫ぶの? ドアからそっと覗いてみたら、その答えはすぐに分かった。
ジェシカ・パーソウ。深い青のドレスを着た彼女は、息をのむほど美しい。ダンス部での活動が、彼女の脚をあんなに見事に鍛え上げたのだろう。
彼女がしがみついている男は、気づいていないのか、気にも留めていないようだ。
アレックス・ヒューレット。ホッケー部のキャプテンで、成績はそこそこ、そして札付きの、本気にならないプレイボーイ。私のオリヴァーはいつも彼のことになると夢中になって褒めちぎる。今シーズンのチームの大躍進も、彼のおかげなんだとか。
私は……アレックスには別に興味ない。確かに、彼はファッションカタログの写真が現実になったみたいだけど。明るい色のスラックスに、黒のドレスシャツをインして、清潔なスニーカー。
でも私の知る限り、彼は誰かと真剣に付き合うタイプじゃない。遊び相手専門って感じで、これまで誰かと本気で交際したなんて話は聞いたことがない。
もっとも、ジェシカの方は、うーん、そのへん分かってないみたいだけど。噂じゃ、彼女、誰かに「私の彼氏にちょっかい出すのやめてよ」ってメッセージを送ったらしい。しかもアレックス自身のスマホから。
あの二人はまだ揉めてるみたいだから……私はとりあえずここで待っていよう――
スマホが大音量で鳴り出して、心臓が喉から飛び出しそうになる。
あぁ。九時四十五分。
パニックが私を襲う。急いで止めようとするけど、うまく操作できないうちに、化粧室のドアが勢いよく開けられた。よろめきながら後ずさり、顔を上げる。
ジェシカだ。完璧な姿で、そして激怒している。170センチはありそうな彼女の長身が、160センチそこそこの私には山のように大きく見える。
彼女の視線を受け止めるのは……無理。そっと横を通り抜けようとしたけど、彼女の手が私の肩を掴んだ。
「あんた、一体何なの?」ジェシカが低い声で言う。爪が食い込んで、私は顔をしかめる。「さっき私たちの話、聞いてたんでしょ? 性悪な友達とでも一緒になって笑うために動画でも撮ってたわけ?」
「あー……」
私が答える前に、大きな手がもう片方の肩を掴んで、私を引き離した。私は固まってしまう。誰かの胸板に押し付けられて。
「やあ、ハニー」甘ったるい声がする。「遅かったじゃないか」
……オリヴァーは私を「ハニー」なんて呼ばない。この体も、大きすぎる。
見上げると、アレックスの温かい茶色の瞳と目が合った。彼はウィンクしてから、ジェシカの方を振り返った。
「……なんだよ、その目は? 俺が本気で付き合うタイプじゃないって知ってるだろ。ただ楽しんでただけだけど……もういいんだ。じゃあな」
それから、私は促されるままに連れ去られる。耳がぼんやりして、アレックスが私に何を言っているのか、はっきりとは聞き取れない。
彼の手って、いつもこんなに大きかったっけ? こんなに強かった? まるで万力みたい。
顔に一陣の風が吹き付けて、ようやく私たちがどれだけ進んだかに気づく。……いつの間に通りまで出てたんだろう?
「……よし、彼女、行ったみたいだな。ったく、助かったぜ――」
すぐに彼の腕の中から身を捩って抜け出すと、雪化粧した地面に頭を打ち付けそうになる。威嚇するつもりで彼を睨みつけると、彼はまるで怯えた小鹿をなだめるみたいに両手を上げた。
「やあ、ああ、さっきは悪かったな。ジェスが俺に突っかかってきててさ」彼の視線が私の体を上から下まで舐めるように動くのを感じる。「でも、あんたのおかげで助かったよ。電話番号、教えてくれないか? この埋め合わせはするからさ」
彼が何を言ったのか理解するのに、少し時間がかかった。それから、胸の内に苛立ちがこみ上げてくる。今、私を利用してジェシカを振ったんじゃなかったの?
「……結構です」
よろめきながら彼を通り過ぎ、レストランへと踵を返す。もうどうでもいい、とにかく戻るんだ。オリヴァーを待ちたいだけなんだから。
しかし、彼のスニーカーが私の隣に追いついてきた。
「本気で言ってるんだ、本当にごめん! マジで……誰か待ってるのか?」彼がフンと鼻を鳴らす。「もうすぐ十時だぜ。まともな彼氏なら、こんな日に遅刻なんてしねえよ」
私は足を止め、彼に向き直った。なんとか、食いしばっていた顎の力を抜く。
「気まぐれでそこらの女の子を利用するような奴は黙ってなさいよ。彼はあんたなんかより千倍はマシなんだから」
アレックスは眉を上げ、私をもう一度じろじろと見た。
「……見かけによらず、トゲがあるな」彼はポケットに手を突っ込み、ニヤリと笑い始める。「レッドモンド高校だろ? おまえのその完璧な王子様ってのは、俺の知ってる奴か?」
「オリヴァーは――」
あ。
今日は私たちの半年記念日なのに、それを知っている人はほとんどいない。オリヴァーは学校の噂話が好きじゃないし、彼がそれでいいなら私も満足だった。でも……
私は言葉を切り、アレックスを見上げた。彼がその名前を知らないことを願いながら。でももちろん、彼は知っていた。太い黒眉が驚きに持ち上がっている。
彼の笑みがいたずらっぽくなったので、私はできるだけ表情を硬くしようと努めた。
「オリヴァー・オークリー? ああ……チームの貴重な戦力だよ。本当に面白い奴だ」彼が息を呑み、私はわずかに体をこわばらせた。「面白いと言えば、ガンサーが両親の留守中にパーティーを開いてるぜ。ちょっと顔を出してみろよ。何か面白いものが見られるかもしれねえぞ」
……冬の冷気が、カーディガン一枚しか羽織っていないことを容赦なく私に突きつける。私は自分自身を抱きしめ、彼の提案についてあれこれ考える代わりに、逃げることにした。
アレックスが後ろから声をかけてきた。「覚えとけよ! ハーヴェイ通り八二九三番地だ!」
私は返事をしなかった。その必要はない。
―― ―― ――
オリヴァーにメッセージを送ったのは九時五十二分。
それから十時十分。
十時三十五分。
十時五十五分。
午後十一時には、私はもう閉まったレストランの外で雪の中に立っていた。食べかけのブレッドスティックを入れた持ち帰り用の箱を脇に抱えて。お腹が空腹でぐうと鳴った。
もしかして……オリヴァー、私をすっぽかしたの?
いや、そんなはずない。きっと何か事情があったんだ。
例えば、何だって起こりうる。携帯のバッテリーが切れたのかもしれないし、交通事故に遭って返信できなかったのかもしれない。それか、もしかしたら……
違う。
もしオリヴァーがパーティーに行くなら、私に言ってくれるはずだ。ジェシカみたいに取り乱す必要はない。確かに、オリヴァーと私は本当に付き合っているけれど、それでも。
……まあ。ちょっと顔を出すくらいいいじゃない。ガンサーのことはよく知らないけど、彼ならオリヴァーがどこにいるか知ってるかもしれない。
確かめるだけ……いいよね?
彼がいるかどうか、見るだけ。それだけよ。
到着するとすぐに、他の車の中から彼の車を見つけた。
中の照明と音楽は……すごかった。人が多すぎて、中に入っただけで押しつぶされそうになる。なんだか熱気がすごくて、息苦しいほどだ。
タイル張りの床によろめきながら入ると、ガンサーがいた。ひょろりとしたブルネットの男が、安物の酒瓶を力なく手に持って椅子にぐったりと座り込んでいる。
「ねえ……」
ガンサーは、まるで私が蜃気楼でも見るかのようにゆっくりと瞬きをした。たぶん、そう見えたのかもしれない。私の髪はもうめちゃくちゃだ。
まるでコンクリートみたいに固まっていく頭から、必死で言葉を絞り出そうとする。
「あの……えっと……オリヴァーのことなんだけど。その……どこに……いるか……知らない?」
ガンサーは目を細めて私を見た。「あぁん?」
音楽がうるさすぎる。だから声を張ってみたけど、彼には聞こえない。もう一度試したけど、だめだった。
「だから! オリヴァーがどこにいるか知らないかって聞いてるの!」
叫ぶと喉がヒリヒリした。背中を汗が伝っていく。
「おお。ちくしょう、怒鳴らなくてもいいだろ」ガンサーはフンと息をついた。「あいつなら二階で寝てるぜ」
安堵感が一気に込み上げてきた。
階段はどこ? とにかく階段を見つけるのよ。寝室は二階にある。
最初の段がちらりと見えたとき、私は人混みをかき分けて進んだ。ただ、この人たちから離れたかった。
二階へ上がると……
静かになった、と思う。階下の喧騒と耳鳴り、そして自分の荒い息遣いのせいで、他の音はほとんど聞こえない。
でも、彼がここにいるのはわかる。彼を感じる、私の導きの光。オリヴァーはここにいる。
最初に見つけたドアの向こうに彼がいる。きっと休んでいるに違いない。
どうしてメッセージに返事をくれなかったのかは後で聞こう。私はただ……彼に会いたい。
彼が無事だと知りたい。家に帰る前に、ただ落ち着きたいだけ。
階下から、カウントダウンする声が聞こえる。
彼を起こさないように、そっとドアを開けた。
でも、彼はもう起きていた。
階下の声が歓声を上げている。
オリヴァーは確かにベッドにいた。
彼は掛け布団の中で、肩をあらわにした女の子とキスをしていた。