


章 5
「つ……ついて……来ないで」
私はできるだけ人目を避けるため、裏の廊下へと急いだ。普通の生徒たちは主要な通路を使うけれど、私にはお気に入りのルートがあった。そして、アレックスにはそこまでついてきてほしくなかった。
彼が約束を守って車を返してくれたことには感謝しているけれど、彼と私は友達じゃない。
「おい、マジだって。あんなこと言ったのは悪かった。おまえ、どうかしちまったのか?」
こんなこと……もう続けられない。
私が急に立ち止まると、彼も同じくらい素早く足を止めた。振り返ったとき、胸がズキズキと痛んで、どうしようもなく締め付けられ続けていた。
「あ……あなたはオリヴァーに……私の『ノー』を受け入れろって……言ったでしょ。私、言ってるの……の、ノーだって。だから、やめて。だ、大丈夫だから」
アレックスは両手をだらりと下げたまま、私を見下ろしていた。
今度こそ、私が向き直って逃げ出したとき、彼が追ってくる音は聞こえなかった。
―――
背景に溶け込もうという私の目標は、失敗し続けている。でも、どれほどひどく失敗しているかに気づいたのは、放課後になってからだったのだ。
ロッカーに向かっていると、いつもより多くの視線を感じる。ここはロッカーまでの、もっと落ち着けるはずの通路なのに、どうしてみんな私を見ているんだろう?
こんな風に誰かに見られるなんて、今までなかった。床に溶けて、床板を通り抜けて、土の中に染み込んでしまいたくなる。
近づくにつれて、ひそひそ話が大きくなる。地面には、何か怪しげなものが散乱しているのが見えた。
ああ。私のロッカーがめちゃくちゃに荒らされているからだ。
私が使っていた鍵は、それを壊したものには歯が立たなかったようだ。
試験の答案、勉強用のプリント、古い成績表なんかが、まるで事件現場みたいに散らばっている。私のロッカーの扉とその周りには、小学校時代の私の写真がびっしりと貼られていた。中には『カササギの夢』でリトル・オフィーリアを演じたときのものもあって、歯の矯正器具をつけて、まるまるとしたカラスの衣装を不安そうに着ている私が写っていた。
時々自分を元気づけるために、お母さんからの愛情のこもったメモと一緒にここにしまっておいたのに。それらもまた、むき出しにされ、撮影するスマホのカメラに晒されている。
ロッカーの中が空っぽになっているのを見て、学校の教科書や趣味の本がなくなっていることに気づいた。
それでも、ショックが大きすぎて、いつものように反応できなかった。
きっと誰かがダニエルに、カフェテリアでオリヴァーが私を助けようとしたことを話したんだ。それとも、ジェシカが同じような嫉妬心から私に八つ当たりしたんだろうか? それとも、どこか別の女の子が私を標的にしたんだろうか?
周りの生徒たちはくすくす笑いながらひそひそ話をし、ネットに投稿するために写真や動画を撮っている。私はただそこに突っ立って、どうすればいいのかわからず、その全てを呆然と見つめていた。
誰かが私の腕を軽く叩いた。私はビクッと体をこわばらせて振り返る。目が飛び出そうだった。
その女の子――ヘイリーは、私の反応に驚いて後ずさった。私たちは会釈を交わす程度には話したことがあったけれど、彼女はこんな私を見るのは初めてだった。
「あの……シンシア? 聞こえる?」
声が出なかったので、代わりに頷いた。
「えっと……それでね」ヘイリーは視線を横にそらした。「あなたの荷物。つまり、本のことなんだけど。聞いた話だと……プールの中にあるって……」
その知らせを聞いて、何人かの生徒が「おおー」と声を上げたり鼻を鳴らしたりしたが、私は慎重に無表情を装った。
―――
ナタトリウム――つまり屋内プールは校舎に繋がっていて、二つある体育館の一つに隣接している。
真冬なので、プールはあまり使われていない。水泳部が冬期トレーニングをすることはあるけれど、今のところプールエリアはほとんど閉鎖されている。
私が到着すると、ドアは大きく開け放たれていて、中の暗闇が私を待ち構えていた。内なる痛みにぎゅっと目を閉じ、それから手で頭をがしがしと掻きむしり、小声で唸った。
間違いなく、罠だ。
慎重に、プールエリアのドア近くの隅にバックパックを置き、できるだけ多くの荷物をそこに残した。財布はちゃんとチャックを閉めて中に入れ、それから明かり代わりに携帯を取り出した。
暗い部屋のどこに照明のスイッチがあるのかわからないので、仕方ない。
暗闇の中で水面は静まり返っていて、携帯のライトをかざすとキラリと光った。私はすぐに水際に近づき、教えてくれた人の言葉を反芻した。
しかし……ページが水面に浮かんでいたり、インクが滲んで水が濁っていたりする様子はない。プールは相変わらず、底まではっきりと透き通っている。
混乱でどうにも落ち着かない。そのとき、何か色鮮やかなものが目に留まった。スマートフォンのライトを向けてみると……そこにあったのは。
私の本だった。プールの中ではなく、来客用の椅子の上にきちんと重ねられ、すっかり乾いていた。
だが、安堵のため息をつく間もなく、背後から誰かに強く突き飛ばされた。
突然、水が鼻と口、そして耳に流れ込んできて息が詰まる。
もがき始めると、塩素が目に染みて痛い。水は凍えるように冷たかった。
着ている服は泳ぐのにはまったく不向きで、水面へ上がろうともがくうちに、水を吸ってどんどん重くなる。
ようやく水面に顔を出すと、私は息を吸い込み、叫び声をあげた。しかし、そのとき大きな音が響いた。
まだ、はっきりとは見えない。
それどころか、ほとんど何も見えないのだ。
プール施設のドアは閉められていて、私は完全な暗闇の中にいた。
ぜえぜえと息を切らしながら、プールサイドと思われる方へともがき、水をかき分けて進む。暗闇の中では、方向がよくわからない。
プールの縁に手が勢いよくぶつかり、火花が散るような痛みが走った。それでも、ありがたかった。水から這い上がろうと必死になる。
やがてなんとか這い上がり、私はただそこに座り込んだ。できる限り目が慣れるのを待たなければならない。閉め切られた部屋の漆黒の闇は、夜の森の、あの微かな光がある闇とはわけが違うのだ。
スマートフォンを試してみる意味はない。もがき始めたときに、水中のどこかに落としてしまったのだ。ライトが消えているから、もう壊れてしまったのだろう。
寒さが骨の髄まで染み渡る中、ふらつく足で這い進み、指先が地面を擦り、やがて冷たい金属のドアに触れた。手を伸ばして押してみても、ドアはびくともしない。
スマートフォンは壊れ、明かりもなく、外の世界との連絡手段もない。この時期、プールには誰も来ない。一番いいのは、警備員か先生が見回りに来るのを待つことだけど……いつ?
今日の午後? 明日の朝?
これを計画した誰かは、私を苦しめるつもりだったのだろうから、多分、明日だろう。
「はっ……はは……は……」
乾いた、苦痛に歪んだ笑いが胸の奥からこみ上げてくる。
どうしてこんなことばかり私に起こるの?
こんなこと、何も望んでいなかったのに。オリバーが私と付き合うことも、アレックスが私に注目することも……全部勝手にやってきたことなのに、今では敵がたくさんいる。
……つらい。
つらいの。
ドアの前でうずくまり、膝に額を押し付ける。笑いが止まらない。嗚咽を押し殺すかのように、くぐもった小さな笑い声が漏れる。
もう私には導きの光なんてない。ただ……暗闇に置き去りにされただけ。
聞こえるのは、水滴が落ちる音と波紋の音だけ……。
いや、違う。何か別の音がする。
呼びかける声。誰かが……ドアの向こうにいる。
私の名を呼んでいるようだ。
目を開けようともせず、静かにうずくまったまま、ただ耳を澄ませる。でも、確かに呼びかける声は止まず、だんだん大きくはっきりとしてくる。
声が近づくにつれ、ふわりと匂いがした。松の木のような……とても、いい匂い。
ドアのすぐ外で、足音がどすんと響くのが聞こえた。
「シンシア?! シンシア! 何か言ってくれ!」
また……アレックスだ。どうして彼はいつも、私がこんな目に遭っている場所がわかるんだろう?
「待ってろ、今……。下がって!」
私はどちらもせず、ただ座って膝を見つめているだけで、疲労感が体に染み込んでくる。そのため、金属が軋むような音が聞こえるほど近かった。向こう側でアレックスがうなり声を上げ、ドアを叩きつけると、ドアが……。
どうやら、壊れ始めたらしい。
ドアを固定していた蝶番とボルトが、どういうわけか外れた。
廊下の眩しい光から目を守るように、私は目を閉じたままだった。鼻腔を満たすのは松ぼっくりの香り。ジャケットがふわりと肩にかけられたのを感じると、その香りは一層濃くなった。
それから、まるで重さがないかのように抱き上げられた。疲労がどっと体にのしかかり、私は、いつも危険なところを見つけてくれるその力強い腕に、されるがまま身を預けた。
抗議する代わりに、私は彼の首筋に鼻をうずめた。