第1章

 金属製の足枷が足首に冷たく擦れ、そこにはすでに暗赤色の傷跡が輪を描いていた。

 ベッドの頭にもたれかかり、窓の外に広がる東京の夜景の瞬きを眺める。一方、私はこの狭い和室に閉じ込められ、日の目を見ることはない。

「優香、もう三日も何も食べていないぞ」

 和泉陸が戸口に立ち、その手には白粥の入った碗があった。

 彼の声は静かで冷淡であり、まるでどうでもいい事実を述べているかのようだった。

「母様がまた集中治療室に入るところを見たいわけでもあるまい」

 七年間、ずっとこうだった。私が何か彼の気に食わないことをすれば、彼は人を遣って母をいたぶるのだ。

 私は顔を向けた。

「お兄様、七年です。これほどの復讐をしても、まだ足りませんか?」

 和泉陸は和泉家で常に跡継ぎとして育てられてきた。彼は私の婚約者であり、夫であり、生涯を共にするはずの愛する人だった。だから、これまで一度も彼を兄と呼んだことはなかった。

 和泉陸の動きがぴたりと止まり、声が一段と冷え込んでいく。

「今、俺を何と呼んだ?」

「お兄様、あと何年私を苦しめれば、気が済むのですか」

 母が和泉陸を彼の愛する高嶺の花と別れさせ、私たちを無理やり結婚させてから、そして彼が会社を継いでから、この「復讐」の結婚生活は始まったのだ。

 来る日も来る日も、私はただ弄ばれるだけの人形だった。

 彼はベッドの傍まで来ると、無理やり私の顎をこじ開け、粥を口の中に流し込んだ。

「まだ足りない。和泉優香、お前たち母娘がしたことは、一生かかっても償いきれん!」

「ゲホッ——」

 胃に見慣れた痛みが走る。まるで無数の針で刺されるような感覚。

 私は苦痛に身をかがめ、流し込まれたばかりの粥を全て吐き出した。

「お前たちが夢にまで見たことじゃないか?」

「今こうしてお前たちの傍にいてやる。母娘を見捨てたりしない。何を今更、悲劇のヒロインぶっているんだ?」

 和泉陸の目に怒りが閃き、彼は私の髪を掴んで、無理やり顔を上げさせた。

「それとも、ハンガーストライキで俺を脅せると思ったか?」

 私は力なく首を振る。末期胃癌の苦しみは、演技で出せるものではない。

 再び嘔吐したとき、鮮血が白粥に混じり、シーツを赤く染めた。

 和泉陸の表情が、ようやく変化した。

「これで貸し借りなしです、和泉陸」

 私は弱々しく言った。

「どうか母を許してあげてください」

「私たち二人の間の恨みは、これで終わりです」

 意識が混濁し始める。窓の外から雨音が聞こえてくる。七年前のあの雨の夜と、そっくり同じ音だ。

 再び目を開けると、見慣れた和室が目に映った。私を囚えていたあの寝室ではない。

 畳の上の桜の模様、壁に掛けられた家族写真、そして隅に置かれたグランドピアノ。ここは和泉家の本邸にある、私の部屋だ。

「優香、目が覚めたか?」

 聞き慣れた声が傍から聞こえ、顔を向けると、そこにいたのは若き日の和泉陸だった。

 彼の指がそっと私の頬を撫でる。その親密な仕草に、私は瞬時に体を硬直させた。

「な……何をしているの?」

 私は身を起こそうとしたが、彼のもう片方の手が私の腰に置かれていることに気づいた。

「今夜の演奏会、素晴らしかったぞ」

 彼の吐息はシャンパンの香りを帯びていた。

「だが、知っているか?お前の手首のフォームは、まだ調整が必要だ」

 私ははっと悟った。これは東京音楽学院創立八十周年記念の夜——そして、和泉陸が母によって薬を盛られた、あの夜だ。

 過去に戻ったのだ!

 前の人生では、母に睡眠薬を飲まされたせいで一晩中昏睡し、当然、和泉陸を止めることなどできなかった。

 幸い、今回はまだ意識がある!

「よく見てください!私は和泉優香、あなたの名目上の妹です!」

 私は力いっぱい和泉陸を突き放し、彼の理性を呼び覚まそうとした。

 和泉陸の眼差しが一瞬だけ晴明を取り戻したが、すぐに薬物とアルコールの作用に覆い隠されてしまう。

 彼が私に近づいてくる。もし彼を止めなければ、悲劇が再び繰り返されるだろう。

 ベッドサイドテーブルには精巧なオルゴールが置かれていた。私は素早くそれを手に取り、彼の頭に力いっぱい振り下ろした。

 和泉陸はくぐもった呻き声を上げ、畳の上に倒れ込んだ。

 ちょうどその時、彼が持っていた携帯が振動し始めた。

 電話の相手は菊池明日香だとわかっている。和泉陸が心の奥底に隠していた、高嶺の花だ。

 めまいがする。母が晩餐会で私に飲ませた睡眠薬が効き始めたのだ。

 扉の外から母の声が聞こえる。

「明日香さん、どうぞお入りになって」

「陸をお探しですか?優香の部屋におりますわ」

 菊池明日香は少し驚いたようだった。

「この時間に、優香さんのお部屋にですか?」

「私もよく存じ上げなくて。ご案内しますわ」

 母の口調には、計画通り事が運んだという満足感が滲んでいた。己の企みが成功したと信じ込んでいるのがわかる。

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