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第十四章 ――苛立ち

「クソッ!」

ホテルへ戻る車の中で、俺は吠えた。ヴィクトリアは番の絆を通して、伴侶の裏切りによる苦痛を感じているはずだ。これをみんなに一体どう説明すればいい?

「月の女神に誓って言う、アポロ。戻ったら、お前を黙らせるためにトリカブトを一杯呷ってやる」

急に妙におとなしくなった俺の狼に向かって、唸るように言った。

番が苦痛に身をよじらせているのだから、不在着信とメッセージの嵐になっているだろうとスマホに目を落とす。何もない。みんな俺に怒っているのだろうか? 昨日、ユードラの家に行く前にヴィクトリアから三件の不在着信があった。俺は息を殺してかけ直した。

「ねえ、あなた」彼女...

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