第104章

「絵美ちゃん、もう一度言ってくれ」

生まれて初めて、原田桐也は自分の耳を疑った。

安藤絵美が微笑む。それは桜が綻ぶような、甘く美しい笑みだった。「言ったのよ。この間買ってくれた指輪、私に嵌めてって」

「待っていろ」

原田桐也はすぐさま自分のマンションへと取って返した。

原田光紀はソファでテレビを見ていた。帰宅した原田桐也に声をかけようとしたが、原田桐也は彼が目に入っていないかのように、そのまま上の階へ直行してしまった。

原田光紀が上げかけた手は、気まずそうに中空を彷徨うことになった。

数十秒後、原田桐也は小箱を手に駆け下りてきた。

「桐也、それは——」

原田光紀が言い終わる...

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