第129章

本来、田中志江は安藤絵美にハンデをやるつもりで、先手を取らせようと考えていた。

だが、安藤絵美のその気のない態度に頭に血が上り、何の前触れもなく拳を振りかざして突っ込んだ。

もっとも、その美しい顔を傷つける気はなかったらしく、狙いはあくまで肩だった。

拳が肩に届こうとしたその瞬間、安藤絵美が動く。

しなやかに腰を沈めて田中の拳を躱し、立ち上がると同時に、その拳を相手の顎へと叩き込んだ。

「ぐあッ!」

顎が外れそうな衝撃に悲鳴が上がる。舌を噛んだのか、口の中に鉄錆の味が広がり、田中志江はよろめきながら数歩後退した。

足元が定まるのを待たず、安藤絵美は間合いを詰める。容赦ない蹴りが...

ログインして続きを読む