ボクサーの私、元彼の友達に妻として扱われています

ドンッ！

その重い一撃がこめかみに叩き込まれた瞬間、世界がぐらりと揺らいだ。くそっ！　この新しいスパーリングパートナー、手加減がなさすぎる！

意識がブラックアウトし、身体が意思とは無関係に後ろざまに崩れ落ちていく。ダウンするなんて、私にとってはあまりにも縁遠い感覚だった――私は女子ボクシング界の『鉄の薔薇』、キャリアを通じて無敗の女王なのだから！

「おい、マジかよ！　麗華！」

混乱を切り裂くように、松永隼人の声が響いた。誰かがリングに駆け上がり、もつれるような足取りでこちらへ向かってくるのが気配で分かった。

階下の観衆はどよめき、カメラのフラッシュが瞼の裏で花火のように炸裂する。私は内心で自嘲気味に笑った――最高じゃないか。明日の見出しはきっとこうだ。「鉄の薔薇、無名のスパーリングパートナーにＫＯ負け」。

「すみません！　すみません！　力の加減ができませんでした！」

「急に避けようとしなかったから――あのパンチは受け止められると思ったんです！」

熊のような巨体のスパーリングパートナーが、私の耳元で必死に叫んでいる。

「貴様、何考えてんだ！　うちのクラブの看板選手だぞ！」

隼人が私の隣に膝をつく。その声は怒気に満ちていた。でも、待って……その口調は、私の身を案じるというより、金の心配をしているように聞こえるのはなぜ？

必死に目を開けようとするが、頭が容赦なくガンガンと痛む。

「呼吸が弱い、心拍も不規則だ。救急車を呼べ、今すぐ！」

それは近藤譲司の声だった。彼の手がそっと私の脈を確かめている。不思議だ――どうして譲司に触れられると、こんなに安心するんだろう？

「え、嘘でしょ、麗華さん重症だったりしないですよね？」高島純子の声が聞こえてくる。けれど、その声色には隠しきれない興奮が混じっていた。「来月は高峰アリーナでメインを張るっていうのに。もし何かあったら……」

はあ？！　私は意識を失って、死にかけてるかもしれないっていうのに、純子が真っ先に考えるのは試合のこと？　それにその口調……もしかして、私がどうにかなればいいと望んでいる？

「黙れ！　今は試合の心配してる場合か！」隼人が唸るように言った。

譲司が私の頭をそっと抱きかかえるのを感じる。その動きは泣きたくなるほど優しかった。「救急車はまだか？　すぐに病院でＣＴスキャンを受けさせないと！」

それからの記憶は曖昧だ――救急車、ストレッチャー、救急処置室の刺すような光……。

数時間後、私は特別病室でようやく完全な意識を取り戻した。

頭はまだ割れるように痛むが、思考だけは妙に冴えわたっていた。先ほどの出来事が、何度も何度も頭の中で再生される。

隼人がリングに駆け上がってきて「何考えてんだ」と叫んだ時、あの切迫した声は私の安全を気遣ってのものじゃなかった――自分の金のなる木に傷がついたことへの焦りだ！　そして、親友だと思っていた純子。彼女の声には、はっきりと興奮の色が浮かんでいた。私が怪我をすることを望んでいた？　私の地位を奪いたかった？

三年間！　丸三年間も！　私が結婚の話を持ち出すたびに、隼人は「まだ早い、キャリアが第一だ」と言った。普通の恋人みたいにディナーや映画に行きたいと言っても、いつもクラブの用事を言い訳にした。そして私は馬鹿みたいに、彼が本当に私を愛していると信じ続けていた。

ここ半年、いわゆる親友でマネージャーの純子は、仕事にかこつけて隼人にやけに馴れ馴れしくしていた。私が気づいていないとでも思ったのだろうか？　つい昨日も、純子が隼人に「深夜二時までのトレーニングプラン会議」についてＬＩＮＥしているのを見たばかりだ！

私は内心で鼻で笑った――今日のダウンは、あんたたちの本性を見抜くのに、まさに絶好のタイミングだったわけだ。

病室のドアが開き、隼人と譲司が相次いで入ってきた。

「麗華！　目が覚めたか！」隼人はすぐにベッドサイドへ駆け寄ってきたが、その表情に浮かんでいるのは心からの心配ではなく、安堵の色だった。

私は瞬きし、精一杯、混乱した表情を作ってみせる。「あなた……誰ですか？」

隼人の顔色が一瞬で変わった。「は？　麗華、俺が分からないのか？　隼人だ！」

「はやと……？」私は眉をひそめ、怯えた小動物のようにか細い声を出した。「私……何も思い出せない。ここはどこ？　私、どうしたの？」

譲司が素早くベッドの反対側に回り込む。彼の瞳には、本物の心配が宿っていた。「医者によると、軽い脳震盪の可能性があるそうだ。一時的な記憶の混乱はよくあることだよ」

私は譲司の方を向き、わざと純粋な好奇心で瞳を満たして尋ねた。「それじゃあ……あなたは誰ですか？」

隼人と譲司が顔を見合わせる。隼人の目に一瞬、動揺が走ったのを私は見逃さなかった。

そして私は、人生で最も馬鹿げた言葉を耳にすることになる。「彼……彼は譲司、君の……君の恋人だ」

はあ？！

衝撃で頭が爆発しそうになったが、私は無邪気な表情を崩さなかった。「私の恋人？　本当に？」

譲司が驚愕の表情で隼人を見つめ、何か反論しようと唇を動かすのが見えた。

「そうだ、譲司は君の恋人だ」隼人は早口になりながら、その馬鹿げた嘘を続けた。「俺は君の上司だ。松永隼人だ、隼人って呼んでいい」

上司？　危うく吹き出すところだった。三年間も恋人だったのに、一夜にして従業員に格下げ？　松永隼人、あんたもなかなか大したタマね！

「上司？」私はさらに混乱したふりをした。「私、どんな仕事をしてるんですか？」

「君は……君はボクサーだ」隼人はどもった。「だが今は怪我をしていて、休養が必要だ」

私は譲司に視線を移し、澄みきった無垢な瞳で彼を見つめた。「譲司さん、本当に私の恋人なんですか？　私たち……いつから付き合ってるんですか？」

哀れな譲司は口をパクパクさせるだけで、声にならない。私よりも苦しそうな顔をしている。

彼らは私を休ませたいと言い残し、もう少し言葉を交わしてから病室を出ていった。だがガラス張りのドア越しに、隼人が譲司を階段室へと引きずっていくのが見えた。

何を話しているのかは聞こえないが、隼人の必死な身振りと、譲司の躊躇いがちな表情から、話し合っている内容は想像がついた。あのろくでなしの隼人、譲司にこの嘘を維持させようと説得しているに違いない！

案の定、まもなくして譲司が一人で戻ってきた。その表情は心をかき乱されるほどに複雑だった。

「麗華、医者から退院の許可が出た」譲司の声はかすれていた。「君を……君を俺の家に連れて帰る」

家？　私は内心で冷笑した。どこの家に、よ。

譲司に付き添われて病院を出て、車に乗り込むまで、私はずっと眠ったふりをしていた。そして……。

深夜二時、エレベーターのドアが開き、譲司のペントハウスの部屋に入った瞬間、私は思わず息を呑んだ。

まるで建築雑誌から抜け出してきたような空間だった――床から天井まである窓からは白坂のきらめく夜景が一望でき、高級大理石の床が、照明の下で暖かく輝いている。

「すごく綺麗な場所！」私は目を丸くして、感嘆したふりをした。「ここが本当に、私たちの家なの？」

譲司は優しく私を中に招き入れた。「ああ、ゆっくり休むといい。詳しい話はまた明日にしよう」

私は辺りを見回したが、心の中では冷ややかに嘲笑っていた。このマンションには、女性の存在を示す痕跡が一つもない。二人の写真なんて、もちろんあるはずもなかった。

隼人もずいぶんとプロ意識に欠ける嘘をついたものだ！

「譲司さん」私はわざと困惑した表情を浮かべた。「どうして私たちの写真が一つもないの？　私たち、いつから付き合ってるんですか？」

譲司は明らかに動揺し、どもりながら答えた。「えっと……君はまだ回復期なんだ、複雑なことは考えない方がいい」

「でも、どうやって出会ったのかも、いつ付き合い始めたのかも思い出せないの……」私はさらに畳みかけ、愛への渇望を目に宿らせた。

譲司が私を見るその眼差しに、私の胸はちくりと痛んだ。その視線は……まるで私が本当に彼にとって大切な存在であるかのようだった。どうして見ず知らずの他人の気遣いが、三年間付き合った恋人の「愛」よりも胸に響くのだろう？

「麗華、疲れているだろう。客間で休めるように準備してある」譲司の声はかすれていた。

「客間？」私はさらに混乱したふりをした。「私たち、恋人同士なんでしょ？　どうして別々に寝るの？」

譲司の顔が瞬時に赤くなった。「君は……君は怪我をしているから、一人で休めるスペースが必要なんだ」

私は素直に頷いた。「そうね、あなたの言う通りだわ」

譲司は私を客間まで案内し、ドアを閉めて去っていった。

豪華なベッドに横たわり、ずきずきと痛むこめかみに触れながら、私の口角は冷たい笑みを形作った。

「松永隼人、三年間も私を金蔓として扱っておいて、今度は他の男に押し付けようってわけ？」

私は拳を握りしめ、かつてないほどのスリルが全身を駆け巡るのを感じた。

あんたがそんな馬鹿げた嘘を作り上げたっていうなら、私はそれに乗ってやる。どこまでその芝居を続けられるか、見物じゃない！

譲司が私に向けていた眼差しを思い出す――あの優しさは、隼人が一度も私にくれたことのないものだった。もしかしたら……この偶然手に入れた「恋人」は、本物の恋人より面白いかもしれない。

隼人、ゲームをしたいの？　なら、やってやろうじゃない。

ただし、今度は私がルールを決める。