第2章

西野光は手慣れた様子で、俺の机に課題帳を置いた。

「凛、この練習問題やっといてくれ。風紀委員会の会議があるんだ」

彼の声は高くも低くもなく、周囲のクラスメイトに助けを求めていることは聞こえるが、具体的な内容は聞き取れない絶妙な音量だった。

私は彼を一瞥し、平坦な声で告げる。

「自分でやりなさい」

西野光は眼鏡を押し上げ、わずかに驚いた表情を見せた。

「……おい、今日のお前、なんかおかしくないか?」彼は声を潜めた。

私は自分の本を閉じる。

「これからは、あんたの宿題はあんた自身でやることね。もう手伝ったりしないから」

彼は声を低め、周りの生徒に聞こえないよう確かめながら言った。

「今日はクラスの奴とネカフェで課題の打ち合わせを約束してるんだ。この問題集は今日中に提出しないといけない。意味、わかるよな?」

私は不意に態度を変え、微笑みながら課題帳を手に取った。

「わかったわ。やっておく」

西野光はほっと息をつき、身を翻して去ろうとする。

彼が教室の戸口まで歩いた時、私は声を張り上げた。

「そうだ。どうせ外で遊ぶんでしょ? だから、お父様にはもう車を寄越さなくていいってLINEしておいたわ。勉強に集中する姿勢、とても褒めてた」

継父は私たちのために運転手を手配してくれている。しかし、西野光はいつも何かと理由をつけて私を車に乗せないようにしていた。以前の私はいつも彼のためにそれを隠し、一緒に車で帰ってきたと嘘をついていたが、もうその必要もない。

クラス中の視線が私たちに集まり、西野光の顔色が瞬時に険しくなる。

「おい! 葉月!」

だが、私はもう荷物をまとめ、教室を出る準備を終えていた。

「光は?」

母は食卓に並べられた豪華な料理を前に、呆然と呟いた。

私は鞄を置き、端的に答える。

「クラスメイトと『課題の打ち合わせ』だって」

「本当? あの子、何も言ってなかったけど……電話してみるわ」

母はスマートフォンを取り出した。

電話は、誰も出ない。

母は次に継父の番号をダイヤルしたが、こちらも応答はなかった。彼女の手は微かに震え、顔は蒼白になっている。

「……少し頭が痛いから、先に部屋で休むわね。あなたは自分で食べてちょうだい」

彼女はか細い声でそう言った。

私は母の去っていく背中を見つめる。その肩はまるで、目に見えない重圧に耐えているかのように、力なく垂れ下がっていた。

一人、この食卓に向かい、私はゆっくりと自分の分を食べ終えた。それから立ち上がると、残されたすべての料理——西野光のために心を込めて準備されたそれらを、すべてキッチンのゴミ箱にぶちまけた。


「理沙叔母さん!」

深夜十時過ぎの西野光の叫び声は、ひどく耳障りだった。

私が部屋から出ると、彼は開け放たれた冷蔵庫の前に立ち、不満を顔中に貼り付けていた。

私はキッチンの入り口の柱に寄りかかる。

「もう十一時よ。そんな大声出したらご近所の迷惑になる。マンションの規約違反でしょ」

「俺の夕飯は?」

彼は私の方へ向き直り、怒りで目を見開いた。

私は静かにゴミ箱を指差した。

西野光がゴミ箱を開け、中の残飯を目にすると、その顔はみるみるうちに土気色になった。

「俺は一日中何も食ってないんだぞ、それなのに夕飯を捨てたのか!」

彼の声は怒りで震えており、大声を出すまいと必死に自制しているのが伝わってくる。

私はシンクのそばにあった、洗剤のついた布巾をひょいと掴み、いきなり彼の口に押し当てた。

「あんたの言葉は汚すぎるわ。家に迷惑がかかる。人に迷惑をかけないのは、最低限のマナーでしょ?」

布巾の下で彼の唇が震えているのがわかる。その瞳は信じられないといった色を浮かべていた。

私は手を離し、電子レンジで温めたばかりの牛乳を取り出すと、ゆっくりと自室へ向かった。

彼は布巾を剝ぎ取り、怒りにまかせて追いかけてくる。

「よくもこんな真似を……! 自分の立場を忘れたのか?」

私は自室のドアの前に立ち、気怠げに牛乳を一口啜った。

「あら、じゃあどうするの? もし不当な扱いを受けたと思うなら、警察に通報してもいいのよ。お巡りさんなら、喜んでうちの家の事情を聞いてくれると思うわ」

西野光の目に、一瞬の狼狽がよぎる。

私はドアを閉め、その向こうで聞こえる彼の重い呼吸音に、ただ可笑しさがこみ上げてくるのを感じていた。

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