第8章

タワーマンションのエントランスで、西村さんがビジネススマイルを浮かべながら、引越し業者の作業員たちに真新しい和風家具の搬入を指示していた。

私と母を乗せたタクシーがゆっくりと近づくと、彼女はすぐに小走りで駆け寄り、私に深々と頭を下げた。

「葉月様、こんにちは! 全てご要望通りに準備が整っております」

母は驚いた様子で私を見つめ、それからこの東京の中心地にそびえ立つ高級マンションを見上げ、その瞳は困惑に満ちていた。一介の高校生がどうしてこれほど高級な住まいを所有できるのか? 彼女の視線は、まるで不条理劇でも観ているかのように、私と西村さんの間を行ったり来たりしている。

「こちらへ...

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