第2章

小島葵視点

「これって、先輩の復讐計画じゃないでしょうね」

目の前のネオンが点滅する『レーザーシューティング場』を見つめながら、私は隼人先輩の罠にまんまとハマってしまったような気分になった。昨日、桜井直樹と松本美咲をくっつけるために協力し合うって約束したのに、彼が提案してきた「完璧なデートスポット」がこれだなんて。

「信じろって。ここは恋が加速する最高の舞台なんだ」隼人先輩が耳元で囁く。けたたましい電子音の中、低く響くその声が妙に色っぽい。「暗がり、跳ね上がるアドレナリン、しかもヒーローみたいな救出チャンスだってゴロゴロ転がってる。恋愛心理の教科書に載ってるレベルだぜ」

私は呆れはしたものの、彼の言うことにも一理あるとは認めざるを得ない。

「葵、私、やっぱり無理かも……レーザータグなんて。モグラ叩きすらまともにできないのに!」松本美咲は、私が念入りに選んであげたアスレチックウェア――タイトなヨガパンツに黒のスポーツブラ――を身につけて、セクシーでありながらどこか頼りなげに見えた。

「それが狙いなのよ、美咲」私は彼女の肩を叩いた。「いい、彼に守らせるの。男ってヒーローごっこが好きなんだから」

「でも、どうすればいいか本当に分からなくて……」

「やり方なんて知らなくていいの。一生懸命やってるように見えればそれで十分」私は声を潜めた。「いいタイミングで、ちょっとだけ転んだりして、彼に受け止めてもらうの。信じて、これは毎回効くから」

反対側では、桜井直樹が隼人先輩と装備エリアで何やらひそひそ話しながら、時折ちらちらとこちらに視線を送っていた。隼人先輩による「改造」の後、今日の桜井直樹は明らかに見た目に気合が入っていた。黒のフィットしたTシャツが筋肉の輪郭を完璧に浮かび上がらせ、髪もわざとらしくスタイリングされている。

「さて」隼人先輩がレーザーガンを手にこちらへ歩いてきた。「チーム分けをしないとな。俺が提案するに……」

「先輩のチームに入ります!」私は素早く言った。それから桜井直樹と松本美咲を見て、「あなたたち二人はペアね」と告げた。

「え?」松本美咲が目を丸くした。「私と桜井さんが?でも、私、やり方が分からないのに……」

「だからいいのよ」私は彼女にウィンクした。「教えたこと、覚えてるでしょ?困った時は、チームメイトを頼るの」

桜井直樹は緊張しつつも興奮した様子で言った。「松本さん、心配しないで。俺が守るから」

「じゃあ、決まりだな」隼人先輩が私に微笑んだ。「一応言っておくが――俺の足を引っ張るなよ」

ナルシスト。私は心の中で悪態をついた。

ゲームエリアに足を踏み入れると、赤と青のレーザーが霧の中を交差し、空間全体がSFチックな雰囲気に満ちていた。私と隼人先輩が青チーム、桜井直樹と松本美咲が赤チームだ。

「キャプテン、作戦プランは?」ヘッドセットを通して、隼人先輩のからかうような声が耳に響く。

「まずは、あの二人が活躍するチャンスを作らないと」私は地形を観察しながら言った。「でも、簡単には勝たせすぎないようにね。私は左から回り込むから、先輩は右をお願い。覚えておいて、桜井直樹がヒーローになれるように、ちょっとした危険を演出するのよ」

「了解」隼人先輩の声には笑い声が混じっていた。「つーかさ、その仕切りっぷり……結構惚れそうだぜ」

「どういう意味?」

「君はいつも状況をコントロールすることばっかり考えてる。みんなを君の脚本通りに動かそうとしてるってことさ」

私は遮蔽物の陰で動きを止めた。「それが何か悪いの?」

「悪いとは言わない。ただ……」彼の声が低くなる。「誰かに君をコントロール不能にさせられることって、あるのかなってな」

心臓がどきりと跳ねた。だがその時、松本美咲の驚いたような悲鳴が響き渡った。

すぐさま様子を窺うと、桜井直樹が私たちの「攻撃」から彼女を守り、遮蔽物の陰で二人がぴったりと身を寄せ合っているのが見えた。

「上出来ね」私はヘッドセット越しに隼人先輩に言った。「先輩の生徒は物覚えがいいみたいね」

「俺の生徒?」隼人先輩の声は誇らしげだった。「直樹のあの庇う動きは、完全に本能だ。どうやら本気であの子のことが好きみたいだな」

私が返事をしようとした時、背後に人の気配を感じた。振り返ると、「敵」が私に狙いを定めていた。

「危ない!」隼人先輩の緊迫した声が響き、次の瞬間、彼は私の隣に現れ、自らの体で攻撃を塞いだ。

「助かった」私は息を呑んだ。「そんなに反応が速いなんて思わなかった」

「チームメートは助け合うものだろ」彼は私を見つめた。その瞳には、読み取れない何かが宿っていた。

続く十分間、私と隼人先輩は驚くほどの連携を見せた。互いの行動を予測するのに、多くの言葉は必要なかった。一方、桜井直樹と松本美咲の間の雰囲気はますます親密になっていく――桜井直樹が松本美咲に狙いの定め方を教え、二人がほとんど密着しているのが見えた。

「第一ラウンド、終了!」スタッフの声が響いた。「赤チームの勝利です!」

松本美咲が興奮して飛び跳ねた。「勝った!直樹さん、すごい!」

彼女は勢いよく桜井直樹に抱きつき、彼の顔は一瞬で赤くなったが、彼女を突き放すことはなかった。

「どうやら俺たちの計画は上手くいってるみたいだな」隼人先輩が私のそばに歩み寄ってきた。

「まだ足りない」私は遠くでまだ抱き合っている二人を見つめた。「もっと進めないと。第二ラウンドは――男子対女子よ」

「は?」隼人先輩が眉を上げた。「それじゃあ、二人をくっつけるチャンスがなくなるだろ」

「いいえ、この方がいいの」私は彼に向き直り、挑戦的な光を瞳に宿した。「松本美咲に、彼女がもっと自立できるってことを見せつけたい。それに桜井直樹は、彼女を追いかけるにはもっと努力が必要だってことに気づくはずよ」

「面白い心理戦だな」隼人先輩は頷いた。「だが、本気で俺と真っ向勝負する気か?」

「何、怖いの?」私は挑発的に微笑んだ。

「怖い?」隼人先輩は片眉を吊り上げた。「俺はただ、君を泣きながら帰らせたくないだけだ」

第二ラウンドが始まり、私はやや戸惑い気味の松本美咲を女子チームの側に引き寄せた。

「でも、葵、さっき直樹くんとすごく上手くいってたのに……」

「上手くいってたからこそ、あなたの価値を見せつけてやるの」私は装備を調整した。「今回は、男子チームを完膚なきまでに叩きのめして、女子の力を見せつけてやるわよ」

ゲームが始まると、私はまるで別人のようになった。三年間続けたチアリーディングのトレーニングは、私に優れた身体能力と反射神経を与えてくれていた。私は戦場を縦横無尽に駆け回り、次々と標的を撃ち抜いていった。

「葵、すごい!」私の後ろで松本美咲が言った。

「あなたもできるわ――桜井直樹の胸を狙って撃つのよ!」

私の指導のもと、松本美咲も闘志を見せ始めた。彼女に撃たれた時の桜井直樹の驚いた表情が見えて、私は密かにほくそ笑まずにはいられなかった。

「どうやら君を甘く見ていたようだな」隼人先輩の声が戦場に響き渡った。「だが、ゲームはまだ始まったばかりだ」

それからの数分間、彼は本領を発揮し始めた。私は彼に翻弄され、常に一歩遅れを取っていることに気づいた。

決定的な瞬間、私は罠を仕掛けた。隼人先輩が私を追っている時、わざと自分の位置をさらし、彼が発砲した瞬間に背後に回り込んだ。

「ゲームオーバーよ、師匠」私は得意げに彼の背中にレーザーガンを向けた。

しかし、隼人先輩が突然振り返り、片腕で私の銃を掴むとは予想していなかった。もみ合ううちに、私たちはバランスを崩し、一緒に柔らかいマットの上に倒れ込んだ。

時が止まったかのようだった。

私たちは顔を向き合わせたまま横たわり、彼の呼吸が感じられるほど近かった。彼の手はまだ私の手首を掴んでいて、その視線は私にじっと注がれていた。

「なあ」彼の声が掠れた。「いつになったら君をコントロール不能にできるか、ずっと考えてたんだ」

心臓が破裂しそうなほど速く鼓動していた。「……今って、それに含まれる?」

彼の視線が私の唇に落ちた。「思うに……」

「ねえ!二人とも何してるの?」松本美咲の声が私たちを遮った。

私たちは素早く離れた。顔が焼けつくように熱かった。

「私たちは……作戦の相談を」私はたどたどしく言った。

「作戦?」桜井直樹が歩み寄り、私たちの間を視線が行き来した。「あまり作戦会議には見えなかったけど」

「ゲーム、終わったの?」私は必死に話題を変えようとした。

「女子チームの勝利です!」スタッフが結果を発表した。「今夜のチャンピオンに拍手を!」

松本美咲が興奮して私に抱きついた。「葵、色々教えてくれてありがとう!なんだか強くなれた気がする!」

桜井直樹が彼女の方へ歩み寄った。「今日の美咲さん、本当にすごかった。あの……聞きたいんだけど――来週、一緒に美術館に行かないかな?」

松本美咲の目が輝いた。「本当ですか?ぜひ行きたいです!」

隼人先輩と私は顔を見合わせた。私たちの計画は、成功したのだった。

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