第30章 それは彼の無能

しばらくして、白石凛は黒木蓮のオフィスに姿を現した。

室内の内装はシンプルかつ重厚で、置かれている調度品からも主の趣味の良さが窺える。

凛が入室したとき、黒木はデスクで秘書と言葉を交わしていた。

黒のスーツに身を包み、腕には高級時計。その物腰は強引さと穏やかさが同居しており、育ちの良さを無言のうちに物語っている。

秘書が退室すると、黒木は立ち上がり、彼女の方へ歩み寄ってきた。

「白石さん、どうぞ」

「設計図の準備は?」

「黒木さん、折り入って頼みたいことがあるんです」凛は少し言い淀んだが、迷いはなかった。「以前紹介していただいた海都の弁護士では、私の離婚案件は扱えないそうで……...

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