第51章

静まり返った室内。橘詩織は携帯電話を握りしめ、神経を逆撫でするような着信音をマナーモードに切り替えた。ディスプレイの上で、発信者の名前が明滅し続けるのをただ見つめる。

彼女は電話に出ず、その名前が消えて通話が自動的に切れるのを呆然と眺めていた。

周囲は闇に包まれている。その暗闇の中で、わずかに早鐘を打つ自分の心臓の音だけがやけに鮮明に響いた。数分後、スマートフォンの画面が再び点灯する。橘梨乃からの再度の着信だった。

長い沈黙の後、橘詩織は伏し目がちに画面を見つめ、震える指先で通話ボタンをスライドさせた。

「橘詩織、どうして電話に出ないの!」

通話が繋がった瞬間、鼓膜を劈くようなヒス...

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