第56章

翌日の夜。

橘詩織は約束通り、プライバシーへの配慮が行き届いた高級中華料理店を訪れた。

案内された個室に足を踏み入れると、相手はすでに到着していた。

カジュアルだが品の良い服を身に纏ったその男は、橘詩織の姿を認めると紳士的に立ち上がり、椅子を引いて彼女を迎え入れた。その笑みは穏やかだ。

「ありがとうございます」

橘詩織は軽く会釈をして席に着いた。少しの躊躇いの後、意を決したように唇を引き結んで切り出す。

「橘商事の件、どうぞよろしくお願いいたします」

「ご安心ください。力になると決めた以上、抜かりなく手配しますよ」

男は少し身を乗り出し、声を潜めるようにして親しげに続けた。

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