第15章 ありがとう、夫は死んだ

あまりに唐突な問いかけに、まだその場に残っていた同僚たちの視線が、野次馬根性を孕んでちらちらとこちらへ注がれる。

綾瀬美月は、腕の中でうつらうつらと船を漕ぎ始めた綾瀬陽を抱きかかえたまま、無表情を貫いた。夜風に乗ったその声は、感情の波を一切感じさせないほど冷たく、そして鮮明だった。

「お気遣いなく。夫は死にましたので」

「……」

一瞬にして、周囲の空気が凍りついた。

まだ立ち去らずにいた数人の同僚たちは、目を見開き、息を呑んだ。酔いなど一瞬で醒め、信じられないものを見る目で綾瀬美月を凝視する。

こんなに若いのに、もう未亡人なのか?

鈴木幸一に至っては、あまりの衝撃に顔面蒼白とな...

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