第16章 また彼女が連れ去られるのを見て

綾瀬美月は即座に口をつぐんだ。全身に纏っていた鋭利な棘のような鎧を瞬時に脱ぎ捨て、そこにはただ、母性溢れる心配顔だけが残った。

彼女は慌てて視線を落とし、幼い背中を優しく叩く。その声は、焦りと慈愛に満ちていた。

「ハル、泣かないで。ママはここにいるわ、怖くない、怖くない……」

必死に宥めようとするが、子供は明らかに怯えきっていた。裂けるような泣き声を上げ、小さな顔を真っ赤にして息を詰まらせている。

「黙れ! 泣き止ませろ!」

桐島蓮はこの泣き声に神経を逆撫でされ、こめかみをピクピクと痙攣させた。苛立ちに任せ、思わず低い声で怒鳴りつける。

すべてを支配することに慣れている彼にとって...

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