第36章 桐島蓮はなぜここに

「救命いかだを降ろせ! この座標へ向かうんだ!」

桐島蓮は即座に決断し、パニックに陥る船員たちに指示を飛ばした。

彼らは辛うじて救命いかだへと乗り移り、粗末な手動動力とオールを頼りに、あの小島の方角へと懸命に進み始めた。

背後では、彼らを乗せていた豪華なクルーザーが、油の膜と漂流物の残骸だけを残して、紺碧の海へとゆっくり沈んでいく。

波は荒く、いかだは激しく揺さぶられる。

桐島蓮は渾身の力でオールを漕ぎ続けた。腕は痺れ、海水でずぶ濡れになった体は骨の髄まで凍えるようだ。

だが彼は奥歯を噛み締め、脳裏に綾瀬美月とハルの顔を焼き付けていた。

ここで死ぬわけにはいかない。彼にはまだ、...

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