第58章 俺は残って嫁を追いかける

氷室龍一はそれが面白いとでも思ったのか、肩の痛みを堪え、ゆっくりとソファから身を起こした。

カーペットの縁まで歩み寄り、しゃがみ込むと、赤い積み木を一つ拾い上げ、綾瀬陽の目の前に差し出す。どうやら、あやそうとしているらしい。

幼い陽は積み木と氷室の顔を交互に見比べ、まだ数本しか生えていない乳歯を覗かせて、にこりと笑った。むちむちとした小さな手を伸ばし、それを受け取ろうとする。

「あっ! 氷室様!」

ニコルは魂が抜けるほど驚愕したが、恐怖など構っていられなかった。ほとんど飛びつくようにして、陽と氷室龍一の間に割って入る。声は震えていたが、その態度は異常なほど断固としていた。

「あ、綾...

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