第6章 謎の同級生
「そんなことはいい」橘奏太は深い眼差しで彼女を見た。「まずは風呂に入って温まるんだ。君には休息が必要だ」
彼は、彼女が今見せている冷静さを好ましく思った。単なる脆さよりも、その方が安心できる。
彼は長居せず、気を利かせて彼女に一人の時間を与えた。
温かい湯が体を洗い流していくが、骨に染み込んだ寒さと屈辱は消えそうになかった。
綾瀬美月は鏡の中の自分を見た。蒼白で痩せこけ、目には充血が走っているが、瞳の奥の光だけは失われていない。三年間の獄中生活と非人道的な苦痛は彼女の輝きを削ぎ落としたが、心の奥底の種火までは消せなかったのだ。
彼女は強く目を閉じた。子供の怯えた瞳が脳裏に浮かぶ。
坊や……ママが必ず助け出してあげる……。
今度は、もうあんな愚かな真似はしない。
風呂から上がると、テーブルには消化に良さそうな食事が並べられていた。
彼女は無理やり席に着いた。食欲など皆無だったが、理性が命じるまま、一口、また一口と食べ物を口に運んだ。
体力が要る。頭をクリアにしなければならない。
アシスタントの林田七瀬の穏やかな勧めもあり、予想以上に食べることができた。
体が温まると、極度の疲労が潮のように押し寄せてきた。
客室に通され、柔らかく快適なベッドに触れた途端、意識は泥のような闇へと沈んでいった。
……
その夜、眠れぬ夜を過ごした者は多かった。
桐島蓮が放った部下たちは優秀で、空が白む頃には情報がもたらされた。
「橘奏太?」
桐島蓮は書斎の掃き出し窓の前に立ち、雨上がりの朝陽を見つめながら眉をひそめた。
その名前と、彼女がその男の住処で夜を明かしたという報告を聞いた瞬間、名状しがたい怒りと酸っぱい感情が胸を突き上げた。
「綾瀬美月が今、奴のプライベートマンションにいるというのは確かなのか?」
「はい、社長。昨夜の周辺監視カメラを確認しました。綾瀬様は最後に橘氏の車に乗せられ、金融センター最上階のマンションに入り、その後出てきておりません」
電話の向こうで秘書が恭しく報告を続ける。
「また、橘奏太氏は先週帰国したばかりです。現在は海外の橘コーポレーション代表という肩書きで、アジア太平洋市場開拓のために帰国しており、その実力は侮れません。どうやら……綾瀬様とは旧知の仲のようで、中学時代の同級生だという記録があります」
「同級生だと?」桐島蓮は鼻を鳴らした。
出所したばかりの悪名高い女と、突如帰国した謎多き富豪の同級生?
彼女が最も惨めな時に偶然「通りかかって」助け、自宅に連れ帰っただと?
綾瀬美月が他の男に弱みを見せたり、頼ったりしている姿を想像するだけで、ひどく目障りだった!
この数年、その光景はずっと彼を苦しめてきた。思い出すたびに、綾瀬美月への憎しみが増した。
それに、橘奏太という名には微かな覚えがあった。
数年前は取るに足らない貧乏学生だったはずだ。それが今や変身を遂げ、俺の家庭の事情に首を突っ込むだと?
挑発されているような、所有物を狙われているような不快感が湧き上がった。
たとえ俺が捨てた女でも、彼女は桐島の妻という肩書きを持っている。他人が触れることなど許されない。
「車を出せ」
桐島蓮の声は冷たく、絶対的な命令を含んでいた。
「橘奏太のマンションへ行く」
どこの馬の骨とも知れない奴が、俺の女に手を出そうなどと、思い知らせてやる。
午前八時。橘奏太のマンションのインターホンが鳴らされた。急かすような、威圧的な響きだった。
アシスタントの林田七瀬がモニターを確認すると、ドアの外には顔色を曇らせた桐島蓮と、その後ろに控えるボディガードたちの姿があった。高価なスーツを着ていても隠しきれない殺気を感じ、すぐに朝食中の橘奏太に報告した。
橘奏太はコーヒーカップを置いた。意外そうな顔はしていない。
桐島蓮が来ることは予想していた。ただ、これほど早く、そして……。
どうやら相手の機嫌は「最悪」のようだ。
彼は林田七瀬に小さく頷いた。
「通してくれ」
桐島蓮は大股でリビングに入ってきた。鷹のような鋭い視線でこの贅を尽くした住居を、特にテーブルの上に置かれた明らかに二人分の食器を刺すように見回し、最後に余裕を持って座っている橘奏太に視線を定めた。
二人の男。共に長身で端正、強力なオーラを放つ二人が対峙し、リビングの空気は一瞬にして張り詰めた。
「橘奏太か?」
桐島蓮が先に口を開いた。傲慢で、上から値踏みするような口調だ。
「桐島蓮だ。妻を迎えに来た」
彼は「妻」という言葉を強調し、氷のような視線を橘奏太に突き刺した。
橘奏太はゆっくりと立ち上がった。桐島蓮よりわずかに背が高く、その雰囲気はより内向的で落ち着いているが、その沈着さの中には無視できない圧迫感があった。
彼は桐島蓮の言葉に直接は答えず、薄く笑った。だがその目は笑っていない。
「桐島社長、お噂はかねがね。しかし私の知る限り、昨夜、桐島社長は大勢の客の前で夫人を無情にも追い出し、冷たい雨の中に放置されたはずですが。一夜明けて、気が変わったのですか?」
桐島蓮の顔色がさらに悪くなり、目に凶暴な光が宿る。口調が荒くなった。
「これは俺と妻の問題だ。部外者が口を出すことじゃない! 橘奏太、お前と綾瀬美月が過去にどういう関係だろうと、今すぐ彼女を出せ! さもなくば……」
「さもなくば?」
橘奏太は彼の言葉を遮った。声は変わらず平坦だが、冷たい嘲笑が含まれていた。
「桐島社長はここで暴力を振るうつもりですか? それとも、商業的な手段で私のような帰国したばかりの『部外者』を潰しにかかりますか?」
彼は一歩も引かず、むしろ一歩踏み出し、桐島蓮の視線を真っ向から受け止めた。
「桐島社長、時代は変わったのです。誰もが桐島グループの権力を恐れるわけではない。綾瀬さんは私の友人だ。彼女は昨夜ひどく消耗していた。今は休息が必要で、移動には適さない。ましてや、彼女を傷つけ絶望させた場所に戻すなど論外だ」
「友人?」
桐島蓮は嘲笑った。
「俺が綾瀬美月と一緒に暮らしていた頃、お前の名前など一度も聞いたことがないな。それとも何か、俺には言えない『特別な関係』でもあったのか? 警告しておくがな、橘奏太、綾瀬美月は法的にはまだ桐島の妻だ。彼女を匿うことは、桐島家を敵に回すことだぞ! 利口なら今すぐ引き渡せ。面倒事は御免だろう?」
橘奏太の瞳が完全に冷え切った。危険な気配が漂い出す。
「桐島社長、言葉を慎んでいただきたい。綾瀬さんが受けた冤罪については、あなたも私もよく分かっているはずだ。敵に回す?」
彼は口の端を微かに上げ、温度のない笑みを浮かべた。
「私、橘奏太が帰国したのは、友達作りごっこのためではありませんよ。桐島社長がどう出るか、受けて立ちましょう。ですが今は、あなたは歓迎されていない。お引き取り願おう」
