第1章
【郁美視点】
「頭、おかしいんじゃないの?」
私は悠介を睨みつけた。
「私たち、結婚するのよ。私たちの結婚式なのよ。私が半年もかけて準備してきたの」
「わかってるよ、俺たちのだろ。でも、朋子は――」
「駄目」
私は一歩後ずさった。
「彼女があなたの親友だろうと関係ない。私たちの式を、他人に譲るなんてありえないわ」
「この家があるのは、朋子のおかげなんだぞ!」
悠介は苛立ちを隠そうともせず、私を見た。
「三年前のあの契約、この土地を買うためのデカい契約だ。あれは全部、朋子の手柄だったんだ。朋子の実家がクライアントでさ。俺が電話で頼み込んだら、翌日にはもう契約成立だ。あの金がなきゃ、俺たちまだ貯金生活だったんだぞ」
「悠介、あの取引は――」
「朋子なんだよ!」
彼は私の言葉を遮った。
「朋子の家族が一本電話を入れただけで、全部解決したんだ。わからないか? 俺たちは朋子に借りがある。この家も、朋子がくれたようなもんなんだ」
「恩があるからって、結婚式まで差し出さなきゃいけないの!?」
「朋子はもう長くないんだ、郁美! たった一つの願いなんだぞ。お前は自分勝手すぎる。どうしても――」
「自分勝手?」
私は愕然として声を荒らげた。
「私が三年もかけて、あなたとの生活を築き上げてきたのに? この家をデザインしたのも私。結婚式を計画したのも私。それなのに、罪悪感があるからって、全部他の女に譲れって言うの?」
「形だけでいいんだ。たった一日だ。頼むよ、これだけなんだ」
「嫌。絶対に嫌。これは私たちの結婚式よ。あなたの結婚式でもあるの。彼女のものじゃないわ」
悠介は呆れたように私を一瞥すると、財布を掴んで出て行った。
その日から、彼による冷戦が始まった。電話にも出ないし、メールも返ってこない。
今朝、私は一人でこの家に来ていた。最後の細々とした仕上げをするために。
かつてリノベーションをしていた頃、私はいつも悠介に意見を求めた。だが、彼の答えは決まって同じだった。「お前はデザイナーだろ。お前がいいと思うようにすればいい。好きにしろよ」と。
私はそれを信頼だと思っていた。私のセンスを信じてくれているのだと。でも今となっては、単にどうでもよかっただけではないかと疑ってしまう。
その時、ポケットの中でスマホが震えた。
取り出してみると、「友人」という表示名からのメール通知だった。
眉をひそめる。心当たりのないアドレスだ。それでも、私はメールを開いた。
本文はない。添付ファイルが二つだけ。PDFファイルと、動画ファイルだ。
まずPDFをタップした。それは出生前診断のレポートだった。妊婦の名前は朋子。受胎日は、朋子が悠介の生活に再び現れた時期と、恐ろしいほど一致していた。
画面の文字が滲んで見えなくなるまで見つめ続けたあと、私は動画ファイルを再生した。
手ブレのひどい映像。隠し撮りだ。アングルからして、ホテルのベッドに座る悠介の横顔がはっきりと映っている。画面の外から、女の声がした。
『もし郁美さんが、結婚式を譲るのダメって言ったらどうするの?』
悠介がため息をつく。
『あいつにはバレないさ。いつも通り、あいつと一緒に計画を進めるフリをする。でも当日、バージンロードを歩くのはお前だ。何が起きたか気づいた時には、もう手遅れだよ』
『本当に気づかないと思う?』
朋子が笑う。
『あんなに長くかけてデザインした家なのに……知ったら絶望して心が壊れちゃうわよ』
『なんとかなるさ』
悠介は投げやりに言った。
『朋子、俺が一番苦しかった時、助けてくれたのはお前だ。今度は妊娠したお前を、俺が助ける番だ。郁美のことはうまくやる。あいつは俺から離れられないよ』
『家に部屋を用意するから、妊娠中はそこで暮らせばいい。お前が病気で介護が必要だって言えば、郁美は疑わないさ』
動画が終わった。
私は呆然と立ち尽くし、スマホの画面を見つめていた。
指から力が抜け、スマホが床に滑り落ちる。拾う気にもなれなかった。
この家。私たちの結婚式。すべてが、私の夢、私の心血、私のすべてだった。それなのに、彼は最初からこれを彼女に与えるつもりだったのだ。この家が私にとってどんな意味を持つか、知っていたはずなのに!
八歳で母を亡くし、半年後に父が再婚した。継母からはいつも邪魔者扱いされ、親戚の家のソファや空き部屋を転々とする子供時代だった。悠介と付き合い始めてから、自分たちの家を持つことを何度夢見たことか。でも彼は、そんなことすっかり忘れてしまっていたのだ。
瞳が痛み、瞬きをすると涙が溢れ出した。力が抜け、その場に崩れ落ちる。この事実をどう受け止めればいいのかわからない。その瞬間、ようやく理解した。私の意見なんて彼には何の意味もなく、私への愛なんて塵のようにちっぽけなものだったのだと。
私は涙を拭い、よろめきながらも立ち上がった。
彼に直接問い質さなければ。本当に、あの動画のように考えているのかを。これが彼に与える最後のチャンスだ。もし彼が私を選ばないなら……その時は、別れるしかない。
