第5章

郁美視点

 それからの数日間、私は目の回るような忙しさの中にいた。

 家の買い手に内見を案内したときのことだ。彼は、これほど素晴らしい家を手放すなんてと驚きを露わにし、引っ越してくるのが待ちきれない様子だった。私はただ曖昧に微笑むだけで、何も答えなかった。

 法律事務所ですべての手続きを終えると、彼は私に握手を求めてきた。

「ありがとうございました、黒木さん」

 私は柔らかな笑みを返す。

「こちらこそ。この家で、幸せな生活が送れることを祈っています」

 オフィスに戻り、デスクの引き出しを一つずつ空にしていく。退職の話を聞きつけた同僚たちが、私の周りに集まってきた。

「郁美、い...

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