第4章
玄関に立ち尽くす私の心臓は、ドラムのように激しく鳴っていた。さっきまで積み上げてきた自信は跡形もなく消え去り、代わりに訳の分からない緊張の波が押し寄せてくる。
「落ち着いて、香織!」ドアの前で、私は自分に囁いた。「これは仕事の任務、取材なんだから!」
でも、スーツケースに隠した『森井颯斗の観察と資料収集計画』を思い浮かべた瞬間、顔が裏切るようにカッと熱くなった。
ああ、もう、私はいったい何を書いたんだろう。『24時間密着観察』に『夫研究作戦』……。もし颯斗がこの言葉を見たら、私はもう彼の顔を見られるだろうか。
ピンポーン、ピンポーン――
ドアベルが、さっきよりも性急にもう一度鳴った。
「は、はい、今行く!」慌てて部屋着のしわを伸ばし、深呼吸を一つして、ドアを開けた。
そこに立っていたのは、制服からシンプルな黒のTシャツとジーンズに着替えた颯斗だった。手には質素なバッグを一つ提げている。
薄暗い廊下の照明が、彼の広い肩のラインを完璧に縁取っていた。
私の脳は自動的に『観察モード』に切り替わる。Tシャツが彼の体にぴったりとフィットして、信じられないほどのスタイルの良さを際立たせて……って、違う!何を考えてるの、私!
「迎えに来たよ」颯斗の声は、夜風のように優しかった。
そんな颯斗を前にして、私は自分の『観察計画』がどれほど子供じみて馬鹿げているかを、不意に悟った。
仕事の任務?違う。私は明らかに、ただ……ただ……。
「荷造り、手伝おうか?」颯斗は私の後ろにあるスーツケースに気づき、中へ一歩足を踏み入れた。
「だ、大丈夫!もう全部詰めたから!」私は必死で彼の行く手を阻んだ。見られてはいけないもの、特にスーツケースの奥深くに埋めたあの『観察計画』を、彼に見られるわけにはいかない。
颯斗は私のスーツケースを片手で軽々と持ち上げ、もう一方の手に自分のバッグを持つ。「行こう。家に帰ろう」
家。
その一言が、私の心臓をさらに速く波打たせた。
森井颯斗のマンションは都心にあって、想像していたよりもずっと広かった。清潔でミニマルな内装に、ダーク系の家具で統一されている――すべてが、成熟した男性のエネルギーを醸し出していた。
「君の部屋は二階だ」颯斗はスーツケースを置いた。「もし何か変えたいところがあったら、遠慮なく言ってくれ」
私は彼について二階へ上がりながら、家の間取りを観察した。リビングは広々としていて、キッチンは設備が整い、バスルームでさえ私の部屋の倍はあった。
「ここは元々客間だったんだ。少し模様替えしておいた」颯斗はそう言って、一つのドアを押し開けた。
中には心地よさそうなクイーンベッドが置かれ、窓辺にはいくつかの鉢植えが並んでいる。明らかに、丁寧に準備されたことが分かった。
「い……いつ、こんな準備を?」私は感動していた。
「昨日の仕事の後で」颯斗は事もなげに言った。「これから一緒に暮らすんだ。君に快適に過ごしてほしくて」
胸に温かいものが込み上げてくる。この人は、本当に思慮深い。
荷物を片付けた後、私たちはリビングに戻った。颯斗が水を汲みにキッチンへ向かい、私はソファに腰掛けて、彼の後ろ姿をこっそりと観察した。
広い肩、まっすぐな背筋――水を汲むという単純な動作でさえ、優雅な力強さがにじみ出ている。
もう、どうして家事をしているだけでこんなに魅力的なんだろう。
「何を考えてる?」水の入ったグラスを手に颯斗が近づいてきて、私が見つめていたことに気づいた。
顔が瞬時に燃え上がった。「な……何でもない!」
颯斗は私の隣に腰を下ろした。彼の微かな男性的な香りが届くほど、すぐ近くに。
この緊張感に満ちた空気の中、咲良さんの言葉と、スーツケースに隠したあの『観察計画』が頭の中でこだまする……。
「あの……一つ、お願いがあるんだけど」
言葉は、我ながら衝動的に口から出ていた。でも、一度口にしてしまったからには、もう進むしかない。
「どんなお願い?」颯斗はグラスを置き、完全に私の方へと向き直った。
その深い瞳に見つめられて、呼吸の仕方を忘れそうになる。「警察官のキャラクターをデザインしていて、その……参考写真が必要なの」顔が火のように熱い。「制服を着て、いくつかポーズをとってもらえないかなって……」
颯斗は片眉を上げ、私をドキッとさせるような笑みを浮かべた。「君の仕事の助けになるなら、何でもするよ」
何でも!?
私は自分の唾でむせそうになった。「ちょっと専門的なポーズが必要で、少し……」
「少し、何?」颯斗はソファでさらに身を乗り出し、私の耳元で囁くように言った。「私はプロだ。遠慮はいらない」
彼の温かい息が耳に触れ、私の体に力が抜けていくのを感じた。こんなに恥ずかしいのに、どうして動けないんだろう。このままじゃ彼の前で溶けてしまいそう……!
「じゃあ……制服に着替えてきて」私はごくりと唾を飲み込んだ。「近くで観察して……本物の警察官の、リアルな存在感とか動きを、研究したいから……」
口にしながら、我ながら苦しい言い訳だと思った。「近くで観察」って何?怪しすぎるでしょう!
でも颯斗は疑う様子もなく、ただ頷いた。「十分くれ」
颯斗が二階へ向かうのを見送りながら、私はソファで胸が張り裂けそうなのを必死にこらえていた。
待って、ただ観察するだけで足りるだろうか?もし重要な細部を忘れてしまったら?
咲良さんの言葉が頭をよぎる――本物の男性の魅力を体験するのよ……。
そうだ!写真を撮ればいいんだ!そうすれば何度も見返して、完璧なキャラクターをデザインできる!
私は慌ててカメラを取り出し、アングルや照明を調整し始めた。これは純粋に仕事のため、デザインのためだ!完全に正当な行為!
十分はあっという間に過ぎ、二階から足音が聞こえてきた。
颯斗は階段から現れた。あの、私の夢にまで出てくる警察の制服姿で。
ああ、もう……。
キリッとした紺色の制服が彼の整った体格にきちんと収まり、襟の階級章が蛍光灯の下で控えめに光っている。黒い革のベルトが、彼の引き締まった腰と長身を引き立てていた。制帽の帽章が輝き、真っすぐな視線が、職務に対する誇りを物語っていた。
「なんてこと……」カメラを持つ私の手が震える。これは生身の『刑事F』じゃない!
「どうした?不満か?」颯斗は真剣な顔で近づいてきて尋ねた。「何か調整が必要か?」
不満?鼻血が出そうだというのに!
「い、いえ、いえ、いえ!完璧です!」私は慌ててカメラを構えた。「そこに立って……真剣なポーズをお願いします」
カシャッ。
レンズ越しの彼は、犯罪的なほど格好よかった。決意に満ちた眼差し、力強い存在感――まさに私の夢に描いた男性主人公そのものだ。
「次は、容疑者を尋問するときの表情で」
カシャッ。
颯斗は驚くほど協力的で、どんなポーズもプロフェッショナルにこなしてくれた。写真を撮りながら、私は心の中で絶叫していた。これが本物の男性の魅力!咲良さんは正しかった!
「このアングル、ちょっと調整しないと……」私は唇を噛みしめ、勇気を振り絞って彼に近づいた。
仕事のため!創作のためよ!
「私がやるから……」
私の手は颯斗の胸に触れ、制服のしわを直すふりをした。ああ、なんてがっしりした胸筋なの!彼の力強い心臓の鼓動が伝わってくる――私のと同じくらい速く。
「香織」颯斗の声が、不意に低く危険な響きを帯びた。「本当に、これは仕事のためだけか?」
ばれた!でも認めるわけにはいかない!
「も……もちろん仕事よ……」私の声は震えていたが、手は止まらなかった。彼の筋肉の輪郭をなぞり続ける。この手は、まるで自分の意思を持っているみたい……。
「次は尋問シーンを撮りましょう」私は平静を装って言った。「尋問するみたいに、私を壁に追い詰めてみて」
颯斗は私をじっと見つめた。その視線に、心臓が飛び出しそうになる。
彼は一歩、また一歩と進み、私を壁際に追い詰めた。両腕を私の両脇につき、完全に彼の影の中に私を閉じ込める。
「これでプロっぽいか?」彼の声が、すぐ耳元で低く響いた。
彼を見上げると、互いのまつ毛が数えられるほどの距離だった。彼の微かなコロンと、彼自身の男性的な香りが混じり合う。
これは尋問じゃない――私を殺す気だ!
「と……とてもいい……」私の声は、かろうじて囁きになった。
「カメラは?」颯斗が尋ねた。
私ははっとした。カメラはとっくの昔にソファの上に置き去りにされていた。いつ落としたんだろう?思い出せない!
「私……」
颯斗は思わず笑みをこぼし、身をかがめて私の唇を奪った。
私の脳は一瞬で真っ白になった。彼のキスは優しく、それでいて抗いがたく、彼の舌が私の唇をこじ開けて甘さを味わう。これは、私がデザインしてきたどんなキスシーンよりも、百万倍も圧倒的だ!
「颯斗……」私は彼の唇に囁いた。仕事も写真も、すっかり忘れて。
「随分とこの手の『取材』がお好きのようだ」彼は私の首筋に沿ってキスを落とし、信じられないほど掠れた声で言った。「観察を続けるか?」
私の足はもう力が入らず、彼の首にしがみつくことしかできなかった。「もう……観察は必要ない……」
颯斗は私を抱き上げ、ソファへと運んだ。いよいよ何かが起きると思った、その時――









