第7章

小笠原玲奈は、子供の頃から私と母さんのことを見下していた。

学生時代、母さんは緒方家でお手伝いさんとして働いていたことがある。

ある日、小笠原玲奈が両親と共に緒方家を訪ねてきた際、緒方家の人たちが私を彼女に紹介した。

聞き分けがよくて、成績優秀で、賢い子だと褒めそやして。

その時、小笠原玲奈はひどく愛想よく振る舞い、「お友達になりましょう」などと言ってきた。

けれど陰では、こんなふうに言い放っていたのだ。

「勉強ができたって何になるの? 必死こいていい大学に入ったところで、卒業したら結局あたしたちみたいな人間に使われるだけでしょ」

「あの子の母親ももっとうざい。毎日ヘラヘラしちゃってさ、使用人の分際で何がそんなに楽しいわけ? 貧乏人が貧乏人産んで、ほんと気持ち悪い」

母さんが学校へ私を迎えに来た時、小笠原玲奈と鉢合わせたことがあった。

彼女は英語で『卑しい女』と笑顔で母さんを罵った。英語のわからない母さんは、彼女のことを綺麗なお嬢さんだと褒め、手作りの梅干しをその手に握らせた。

小笠原玲奈はくるりと背を向けるなり、それをゴミ箱へ投げ捨て、皆の前で嘲笑った。

「くっさーい。こんなの、犬だって食べないわよ」

母さんはその場で顔を真っ赤にして立ち尽くし、周囲の人間はそれを見て笑っていた。

私は鞄を放り出すと、猛然と彼女に突っかかり、その髪を鷲掴みにした。

私が袋叩きにされそうなのを見て、母さんは慌てて私を庇おうとした。けれど、小笠原玲奈の取り巻きに蹴り倒され——瞬く間にズボンに血が滲んでいった。

その日だ。母さんに子宮癌が見つかったのは。

忌々しい癌細胞は音もなく忍び寄り、そして無慈悲に母さんを連れ去ってしまった。

あのお守りは、母さんが亡くなる前、私に内緒で、一歩進んでは拝みながら山を登り、寺でもらってきてくれたものだった。

「お地蔵様は、よく願いを聞いてくださるから」

そう言った母さんに、私は泣きながら、どうしてそんな無理をしたのかと問い詰めた。

母さんはただ笑って、「秘密だよ。まだ内緒」としか言わなかった。

実は、薄々気づいていたのだ。幼い頃、私が大病を患った時も、母さんは寺へ行って神仏にすがっていたことを。

自分の寿命が半分になってもいいから、娘を助けてください——そう願掛けをしたのだと。

その後、私の病気は嘘のように治った。

願いを聞き届けてくれたお地蔵様は、本当に母さんを連れて行ってしまったのだ。

最期に母さんは私にお守りを握らせ、こう言った。

「お守りを持っていれば、お母さんもずっと一緒だよ」

後日そのことを知った小笠原玲奈は、母さんをこう嘲笑った。

「これだから貧乏人は。神頼みなんてバカみたい。そんなゴミを残して何になるわけ? どうせなら臓器でも売って、娘に金を残せばよかったのに」

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