第8章

 一年後。

 S市の太陽は、故郷の太陽とは違う感じがする。なんだか、もっと優しい。あるいは、ただ私が変わってしまっただけなのかもしれない。

 私はいつものカフェのボックス席に座り、冷めたコーヒーをちびちびと飲みながら、本を読んでいるふりをしていた。髪は以前より短い。ここへ着いて二ヶ月後に切ったのだ。起こることのなかった結婚式の計画を立てていた頃の自分が鏡に映るのが、もう耐えられなかった。

「真由!」と、中から中村健太郎が呼ぶ。「もう一杯コーヒーはいかがですか?」

「いいえ、結構です!」

 丸一年。三百六十五日。私が飛行機に乗ってから。瑛太も、日記帳も、あのビデオも、すべてを置き去り...

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