第8章

【由紀菜視点】

「な……?」彼は呆気に取られた表情を浮かべる。

「あなたと別れてから、心療内科に通ったの」私の声は、凪いだ水面のように穏やかだった。

「二年かけて、あの病気は克服したわ。過去の亡霊に、これからの人生まで蝕まれたくなかったから」

「由紀菜……」

 私は意識的に話題を変えた。

「ここは十五世紀の建築物よ。造りは頑丈だわ。すぐに救助隊が見つけてくれる」

「本当にそうか?」亮介は荒い呼吸を繰り返している。

「この状況で……俺たちがここにいると、外の連中は分かっているのか?」

「見つけてくれるわ」私は淡々と言った。

「信じて。これより酷い状況だって経験済みよ」

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