54話

バスティアン視点

アスフォデルに長く滞在したことはない。

少年時代、父は私を大陸中あちこちに連れ回し、様々な領土やパックを訪れ、地形を学び、他のアルファたちと会わせたが、エリュシオンほど気に入った場所はなかった。今、セレネとリラがエロスパックの首都の水に浸かったマングローブに住む奇妙な動物たちと交流する様子を見ていると、この不思議な水上都市にも少し魅力を感じることができる。

柔らかい毛皮に覆われた鼻先が水面から現れ、リラの小さな幼児の手にキスをして、子狼を歓喜の声を上げさせる。セレネは娘が桟橋から飛び込まないよう、細い腕で子供の胴回りをしっかりと抱えているが、彼女自身の輝く笑顔があまりに...

ログインして続きを読む