第六十五章

フレイヤ視点

「ねえ」私は甘ったるい声で言った。「谷を出ましょうよ。人間の世界へ行くの」

「なぜだ?」彼のアルファとしてのフェロモンに、困惑が混じっていた。

私は無邪気に微笑んだ。「だって、あなたが群れのヒーラーを使ってすぐに回復できないように、万全を期したいじゃない? 人間の世界には人狼の治癒能力なんてないから」

自分がまんまと罠にはめられたことに気づき、彼は歯を食いしばった。

「このアマ――」彼が言いかけた。

「怖いの?」私は挑発した。「偉大なアルファ様は、ただの食事もこなせないのかしら?」

彼の金色の瞳が、危うい光を放った。「車を出せ」

三十分後、私は本格的なインド料理レ...

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