チャプター 118

エルサ

バーのメインフロアは人でごった返し、音楽がガンガン鳴り響いて胸にまで振動が伝わってくるほどだった。人いきれと、アルコール、香水、汗の入り混じった強烈な匂いで、自分がどこにいるのかも分からなくなりそうだ。息も絶え絶えに、新鮮な空気を求めて人混みをかき分けて進んだ。

ヒールが誰かの足を踏んでしまい、謝ろうと振り返ったその時、後ろから伸びてきた強い腕が腰に回された。反応する間もなく、布が顔に押し付けられ、鼻を焼くような化学薬品の匂いがした。

本能が働いた。スティレットヒールの踵を、男の足の甲に思いきり踏みつけ、抉るように捻ってやる。「ふざけんな、離せ!」と喉を鳴らす。男が悪態をつき、拘...

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