第16章 女に狙われた江口社長

考えている暇もなく、水原葵は野良犬を抱きしめたまま動物病院へ急いだ。

命こそ助かったものの、車にはねられた前足は怪我を負っていた。

腕時計を見た水原葵は、もう遅刻は避けられないと悟り、江口雲上に電話をかけた。

「何だ?」受話器の向こうから、低く冴えた声が響いてきた。

「少し用事があって、朝は遅れます」水原葵が休暇を願い出ると、

「そんな些細なことで連絡するな」相手の声に遮られ、

電話は素っ気なく切られてしまった。

水原葵は小さく口を尖らせた。この男は本当に冷たい、一言も余計な言葉を交わしたくないみたいだ。

どうせ休暇は申請済みだし、と水原葵は獣医に詳しい検査をお願いした。幸い...

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