第19章 濡れ衣

「え?」

つまり、幼い頃の少女は水原葵ではなかったということか。

江口雲上の瞳が暗く曇り、整った顔には失望の色が浮かんだ。

水原葵は唇を噛み、なんだか訳が分からなかった。

どういうつもり?自分が誘拐されていたことを期待していたの?

二人は無言のまま帰宅すると、江口香織が江口雲上に一通の招待状を渡した。

「今週末、杉山おじいさんの古希のお祝いよ。忘れるなよ」

杉山おじいさんの誕生パーティーはA市で最も豪華な皇庭ホテルで開かれ、出席者は社会の名士ばかりだった。

こんなパーティーなど水原葵にとってはどうでもよかったが、朝早くから江口香織に起こされてしまった。

江口香織は冷たい目つ...

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