第28章 水原葵、ありがとう

水原葵は軽く頭を下げて言った。「すみません、ちょっと出てきます」

「どこに行くんだ?」江口雲上は眉をひそめながら不機嫌そうに尋ねた。

「もう食事の時間だぞ」

水原葵に一体何の用事があるというのか。こんな時に出て行かなければならないほど重要なことなのか。

「ちょっと急用が」水原葵は立ち上がり、そのまま外へ向かった。

彼女は動物病院の田中先生に電話をかけた。「田中先生、水原葵です。この前預けた犬の具合はいかがでしょうか」

電話の向こうから田中先生の声が聞こえた。

「完治していますよ」

水原葵は頷いた。

「今から迎えに行きます」

さっきの写真で江口おじいちゃんが抱いていた犬は、...

ログインして続きを読む