第32章 初キス

水原葵が歌い終わると、バーには雷鳴のような拍手が響き渡り、客席からは「アンコール!アンコール!」という声が上がった。

水原葵は礼儀正しく微笑むと、ステージを降り、個室へと戻った。

「葵姉、すごく上手だったよ!まさに天使の歌声!魅色の専属歌手よりずっといいわ!」林田楠は水原葵に惜しみない賛辞を送った。

水原葵はかすかに口元を歪め

「おべっか使いねぇ。ちょっとトイレ行ってくる」

さっきの赤ワインを飲むのが少し早すぎたせいか、水原葵は胃が少し不快に感じていた。

トイレの入口まで来たところで、スーツ姿の中年男性に行く手を阻まれた。

「君は新しい専属歌手かい?」

水原...

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