第53章 これは命令だ

水原葵が何かを言う前に、江口雲上は電話を切ってしまった。

受話器から「ツーツーツー」という音が聞こえ、水原葵は少し困ったように首を振った。

江口雲上が何の用事で自分を呼びつけているのか分からない。

最近、江口雲上は用事があってもなくても彼女を呼びつけることが多かった。

水原葵はエレベーターに乗り、18階に到着すると、真っ直ぐに江口雲上の社長オフィスへと向かった。

オフィスのドアは半開きになっていて、水原葵は手を伸ばしてノックした。

「入れ」江口雲上の澄んだ声が聞こえてきた。

水原葵がドアを開けると、江口雲上がオフィスチェアに座っている姿が見えた。

江口雲上は...

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