第55章 私にそんなに残酷にしないで

「 先に行くよ」山田俊介の視線が水原葵から離れないのを見て、江口雲上は何故か苛立ちを覚えた。山田俊介に軽く挨拶をすると、水原葵を連れて個室へと入った。

水原葵は席に着くと、平静を装いながらさりげなく尋ねた。

「あの山田俊介さん、知り合い?」

江口雲上はさらりと答えた。

「子供の頃の隣人だ」

「仲が良いの?」水原葵が更に問いかけた。

江口雲上の冷たい瞳が細められた。

「どうした?彼にずいぶん興味があるようだな」

「そんなことないわ」水原葵は慌てて否定した。

「ただ友達が山田俊介のファンで、まさかあなたが知り合いだったなんて。これからはサイン入りの写真をもらえ...

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