第58章 見飽きたか

息を呑むほど美しい顔が近づいてくる。もっと、もっと近くに……水原葵の胸の中で、小鹿が跳ねるように心臓がドキドキと激しく鳴り始めた。

「お兄さん!」突然響き渡る不釣り合いな声に、艶めかしい空気は一気に打ち砕かれた。

水原葵は慌てて江口雲上を押しのけ、姿勢を正した。

心の中で後悔していた。どうして顔がこんなに熱いのだろう?

どうして先ほど江口雲上を押しのけなかったのだろう?美しさに惑わされたというのか?

顔を上げて見ると、この突然の招かれざる客は、江口綾だった。

水原葵は思わず眉をひそめた。江口綾はまた何か悪さをしに来たのだろうか。

江口綾はハイヒールでカツカツと歩...

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