ファースト・キス

セイン

彼女の姿は見えない。だが、匂いはする。酸っぱいレモンの香りが鼻をつき、デラがどこか近くにいるのだとわかる。面倒ごとはごめんなので、俺はアイラとのランチを切り上げてパックハウスに戻ることにした。道中はなんてことないはずなのに、なぜかもっと時間をかけたい、一番遠回りのルートを選びたいという衝動に駆られていた。アイラと離れるのを、引き延ばすために。自分でもわかっているのに、その理由が今ひとつ理解できない。

彼女は窓の外をじっと見つめ、あらゆるものを目に焼き付けている。長い間檻の中にいたのだから、もっと怯えているだろうと思っていた。だが、彼女は俺が思っていた以上に強い。パックハウスに車を寄...

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