痛ましい過去

アイラ

「さあ、食事を済ませなさい。そうしないと、あなたと妹は自由時間を中庭の草むしりで過ごすことになるわよ。警備もつけずにこっそり敷地から抜け出して、絶対に見つからないとでも思ってるみたいだけど」

ママが淡々と言い放つ。もっと食べさせようというその試みは、私たちが見つかっていたという事実に気づいた瞬間、失敗に終わった。

「ママ、置いていこうとしたわけじゃないの。あいつらがついてこられなかっただけ」

ママの怒りをどうにか解けないかと、私は期待を込めて言い返す。

「二人は屋根に隠れて敷地からこっそり抜け出した。家から家へ、屋根から屋根へと文字通り走ったのよ、アイラ。そもそもあなたたちが去ったことにすら気づいていない警備員たちが、どうやってついていけるっていうの?」

ママが問い詰める。ああ、これは本気で怒ってる。私は二歳年下の妹、エイダに視線を送る。十二歳と十四歳の私たちは、二人でいればかなりのトラブルを引き起こすことができた。

「フェンスも忘れないで。あれも乗り越えたんだから」

妹が口を挟み、私たちの運命は決まった。

「そうね、どうして忘れられるかしら。フェンスをよじ登り、警備もつけずに敷地から出るなんて、自分たちを危険に晒して」

私は夢を見ている。あるいは、子供の頃の記憶を追体験しているのかもしれない。最後に良い夢を見たのがいつだったか、もう思い出せない。夢はいつも、私が耐え忍んだ虐待や拷問、あるいは私を苛む男たちの言葉で満たされている。瞼が重い。ひどく疲れている。再び意識が遠のきかけたその時、またあの心地よい香りに包まれた。森の地面の匂い。心を落ち着かせる松の香り。彼がいる。すべてが闇に消える前に、私を慰めてくれた男の人。

「エリック、彼女はもう四日も意識がない。回復を早めるために、他に何かできることはないか?」

「栄養補給を続けて、体重も少し増えました。血液検査では極めて高濃度のトリカブトが検出されました。体内にあった量を考えれば、死んでいてもおかしくないほどです。おまけに腎不全に陥っていました。今はバイタルも安定し、認知的な刺激に対する覚醒反応も見せ始めています。トリカブトは彼女の狼を抑制するために使われていたのでしょう。狼が彼女を見捨てたとは思いません。脳スキャンもその説を裏付けています。ただ、彼女が以前にシフトしたことがあるのか、体内の毒素が完全に抜けるまでどれくらいかかるのかは分かりませんが、毒素が抜けきれば、狼との接触を手助けできるかもしれません、セイン」

周りで会話が交わされているのが聞こえるけれど、目を開けることができない。アラマナは去っていなかった。私を見捨ててなんかいなかった! あの不味い粥の苦い味で、薬を盛られていることには気づいていた。何を使われているかまでは分からなかったけれど。目を開けたい。質問したい。でも、すごく怖い。ここにいるのは男の人たち。しかもアルファだ。彼の匂いは驚くほど心地よくて安心するけれど、だからといって危険じゃないとは限らない。でも、もし彼が危険な人物なら、どうして私を助け、手当てしてくれたんだろう? すごく混乱していて、どうすべきか分からない。でも、まずは目を覚まさなければ、何の決断も下せないことは分かっている。目が痛くて重いけれど、瞼の下で眼球が動いているのが感じられる。難しいけれど、これは進歩だ。

「心拍数が上がっています。眼球も動いているのが見えます。私たちの声が聞こえているようです、セイン」

「仔狼ちゃん? 聞こえるか? 目を開けてくれるかい? 君にも聞きたいことがたくさんあるだろうが、俺たちにもある。でも、まずは君に目覚めてもらわないと。ここは俺のパックの診療所だ。ヒーラーのエリックが君の世話をしてくれている。さあ、もう起きる時間だよ」

私はゆっくりと瞼を持ち上げようと試みる。なんとか半分まで開けたけれど、何もかもがぼやけている。

「その調子だ。続けて、瞬きをしてみて。できてるよ。いい子だ」

その称賛の言葉が、私の人生で見た中で最も魅力的なシフターから発せられているのがはっきりと分かった。彼は私のベッドを覗き込み、私の小さな手は、彼のごつごつした大きな手の中に包まれている。短く刈られた黒髪はトップが長めで無造作にセットされ、肌はオリーブ色、数日剃り忘れたような短い髭があり、力強い顎のライン、通った鼻筋、長い睫毛、高い頬骨、そして魂の奥まで見通されているような気分にさせられる、っとするほど鮮やかな緑色の瞳。彼から香る森を思わせる瞳だ。私が完全に目を開けると、彼はゆっくりと微笑んだ。少年のような笑顔には、えくぼまでついている。このアルファがこれほど魅力的だなんて、違法なレベルだ。

「やあ、仔狼ちゃん。俺はセイン・ナイト。ラ・プラタのミッドナイト・パックのアルファだ。そしてこっちがヒーラーの一人、エリックだ」

ゆっくりと頭を左に向けると、ベッドの隣に一人の男性が立っているのが見えた。美しい青い瞳に、無造作なブロンドの髪、そして全身が筋肉質だ。彼もまた、とてつもなく魅力的。このパックの人間はみんな美しいのだろうか?

「君が運ばれてきた時は、本当に肝を冷やしたよ。検査結果は最悪だった。毒にまみれ、ひどい脱水症状と栄養失調だったからね。目が覚めてよかった。四日間も意識がなかったんだ」

エリックが私に告げた。

「名前は?」とセインが尋ねる。途端に緊張が走り、思考が百万マイルもの速さで頭の中を駆け巡った。教えるべき? 信用できない。知らない人たちだもの。彼らが知ったところで、何か意味があるの? もしまた話し始めたら、私の声を聞くためだけに傷つけられるんじゃないか。もし話さなかったら、話さないからという理由で傷つけられるんじゃないか。

「大丈夫だよ、仔狼。今すぐ教えなくてもいい。でも、教えてくれた方が俺たちとしてはやりやすいんだ」セインは私を励ましてくれるが、私はただぼんやりと彼を見つめるだけだった。どうしても、そうする気になれない。「話せるかい?」私はゆっくりと首を横に振って「いいえ」と伝えた。全くの嘘ではないけれど、半分は本当のことだ。

「字は書ける?」私は彼の深い緑色の瞳を見つめた。その中には、濃い茶色の斑点が散らばっている。今まで一度も見たことのない色だ。一瞬、勇気が湧いた。ほんのわずかな、でも確かにそこにある勇気。私はそれに賭けてみることにした。ゆっくりと上体を起こし、ベッドの奥へと身を引く。膝を抱え、自分を慰めるように腕を回した。手を動かしたことで彼の温もりが失われ、心は千々に乱れる。それ自体がもう混乱していた。私はゆっくりと頷いて「はい」と答えた。

「すぐ戻る」エリックがそう言うと、素早く部屋を出ていった。アルファと二人きりになる。彼の方を振り返ると、私を見つめていた。中立的で、わずかに探るような表情。まるで、情報を繋ぎ合わせたり、パズルを解いたりしているかのようだ。彼は静かに私を観察し、私も同じように彼を観察した。

エリックがメモ帳と鉛筆を持ってベッドサイドに戻ってきた。それを手渡され、私は驚きに目を見開いた。これが現実に起きていることなんだ。セインは私の不安を感じ取ったらしい。彼がぐっと近くに寄り、私が足をゆっくりと伸ばして彼らの質問に答えようと心の準備をしていると、私の膝に手を置いた。軽い感触だったけれど、心が安らいだ。

「時間をかけていい。君がたくさん辛い目に遭ってきて、怖がっているのは分かっている。でも、俺たちは本当に君を助けたいんだ。そして、君にも俺たちを助けてほしい」彼の言葉に少し混乱した。私にどんな助けを求めているというのだろう? 私は深呼吸をして、鉛筆を握り、『私の名前はアイラ・フロストです』と書いた。

「アイラ」彼はまるでそれを聞けて安堵したかのように、静かにささやいた。そのえくぼを見せて微笑むと、私は自分が顔を赤らめるのを感じた。隠しようがなく、彼もそれに気づいたのが分かる。笑みがさらに深くなったからだ。「アイラ、いくつか難しい質問をしたい。もし君にその気があるなら、今は少しだけ。いつでもやめていい。正しい答えも間違った答えもないし、君が答えるのをやめても、俺は一切気にしない。いいかな?」私が「はい」と頷くと、それを合図にエリックは部屋を出ていった。

「アイラ、君が攫われたのは何か月前だ?」私は紙に目を落とし、『今は西暦何年ですか?』と書いた。

「年? まだ二〇二四年だ」私はその紙を自分の方に引き戻し、心の中で数えた。十年。攫われてから十年が経っていた。つまり、私は二十四歳。理由は説明できないけれど、その事実に私は微笑んでいた。すぐに答えを書いて彼に見せる。しかし、彼は笑っていなかった。ショックを受けているように見える。口はわずかに開き、眉は、誓ってもいい、生え際まで吊り上がっていた。「十年前……十年間も誘拐されていたのか?」私は彼に微笑みかけ、素早く書きなぐる。「このことを知れて嬉しいです。自分が本当は何歳なのかずっと知りたかったんです。これで分かりました。私は二十四歳です」

彼は口を閉じ、私をじっと見つめた。その瞳が私の顔の上を行ったり来たりしている。彼は素早く床に目を落とし、太ももの上に置かれた手は拳を握りしめ、胸の奥から低いうなり声が漏れ始めていた。彼が顔を上げると、その瞳がかすかに金色にきらめき、また緑色に戻った。彼の内なる狼が、何らかの理由で昂っているに違いない。私はパニックになり始めた。再び膝を抱え、ベッドのできるだけ奥へと後ずさる。彼が私を見上げると、その表情は怒りと悲しみが混じり合っていた。「大丈夫だ、仔狼。君は何も悪いことなんてしていないし、できるはずもない。ただ、君がそんなに長くあの地下牢にいたということを、俺の頭がなかなか理解できなくてな。俺の狼が今、機嫌が悪いんだ。少し外に出て、君を休ませる必要があると思う。君にとって大変なことだったのは分かっているし、本当によくやってくれた。エリックに戻ってきてもらって、話をさせる。今日は彼にちゃんとした食事を持ってこさせよう。でも、君は休むべきだ。この話の続きは、後で必ず戻ってくるから。約束する。いいかい?」

私が素早く「はい」と頷くと、彼はそれに続いて「いい子だ」と言い、私の部屋から出ていった。彼を怒らせてしまったんだろうか。彼は違うと言ったけれど、それを信じることはできない。何も話すべきじゃなかったのかもしれない。もし彼が、私はここにいるには傷つきすぎている、手がかかりすぎると考えたら? ここからどうやって逃げ出すか、考え始めた方がいいのかもしれない。私は肩まで毛布を引き上げ、部屋の隅をじっと見つめた。まるで私に向かって叫んでいるかのように、思考が聞こえてくる。

『お前は傷物だ』

『あいつらはお前を助けたいんじゃない、追い出したいんだ』

私は目を閉じ、震える息を吐き出した。やっぱり、ここから逃げ出さないといけないのかもしれない。

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