第6章
かつて、私は大学のキャンパスに咲く桜の木の下で願いをかけた。運命の赤い糸が、聡明で優しい男性と私を結びつけてくれると信じていた。
あの頃の私は、未来への憧れで胸がいっぱいだった。
今となっては、その記憶さえも遠い前世の出来事のようだ。
今の私は、富士山人類館のガラスケースの中にいる。壁には私のデータと『純血種人類』というラベルが掛けられている。
私の抱いた幻想はすべて、あの桜のように、とうに散り果ててしまった。
丸石亮に、少しばかり好意を抱いていたことがある。彼はクラス委員長で、立ち居振る舞いは品があり、言葉遣いも優雅だった。
その想いを、一度も口にしたことはない。...
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チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章

5. 第5章

6. 第6章

7. 第7章

8. 第8章

9. 第9章

10. 第10章

11. 第11章

12. 第12章

13. 第13章


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