第10章

くしゅん、と杏奈はくしゃみをすると、布団の中へとさらに深く潜り込んだ。風邪は、いつも突然やってくる。おそらく数日前に冷たい風に当たりすぎたせいだろう。

窓の外から、薄いベランダのドアを隔てて石田かずみの声が聞こえてくる。抑えた嗚咽と、呪いの言葉が混じり合っていた。

「クソ野郎……! なんで、なんでこんな仕打ち……他の女を連れてくなんて……!」

杏奈は静かに寝返りを打ち、スマートフォンの画面をぼんやりと見つめた。

石田のインスタグラムが更新されていた。彼女の友人が、西崎の所属するサークルの集まりにこっそりと潜入し、ツーショット写真まで投稿していたのだ。

写真の中で、西崎は見...

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