第11章

セミナー当日。

水原杏奈は、がらんとした準備室の鏡の前に立ち、深く息を吸い込んだ。指先が微かに震えているのを自覚しながら、貸衣装のスーツの襟元を、何度も神経質に整えた。

三年ぶりに、大勢の前で英語のスピーチをするのだ。

ポケットの中でスマホが震え、LINEの通知がポップアップした。

『緊張してるか?』

葉川訪からだった。

杏奈は思わず口元を緩め、素早く返信する。

『死ぬほどね』

『あんたの英語、俺は聞きやすいと思うけど』

杏奈はその画面を凝視し、心臓がとくん、と速く脈打つのを感じた。

葉川が、私の英語は聞きやすい、と? あの、かつて私の拙い発音を、冷ややか...

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