第5章

夜の箱根温泉旅館。露天に設けられたバーベキューエリアは、きらびやかな照明に照らし出されていた。熱を持った鉄板を前に、皆が輪になって座り、弾む笑い声と、肉が焼ける香ばしい音が夜の空気のなかで混じり合っている。水原杏奈は葉川訪の隣に座っており、その真向かいには西崎志宝が陣取っていた。

「悪い、葉川。俺と席、代わってくれ」

西崎が不意に立ち上がり、そう言った。その口調は平坦でありながら、有無を言わせぬ響きを帯びていた。

賑やかだった談笑が、ぴたりと止む。全ての視線が、まるで申し合わせたかのように杏奈へと突き刺さった。

葉川は胡乱げに眉をひそめて西崎を一瞥し、口の端に冷笑を浮かべたが...

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