第7章

水原杏奈と葉川訪が並んで温泉旅館の入り口へと向かう。夜風が、二人の髪先を優しく撫でていった。

その時、見慣れた人影が暗がりからぬっと姿を現した。西崎志宝が腕を組み、険しい表情で仁王立ちしている。

「やっとお帰りか」

西崎の声は恐ろしいほどに平坦で、その視線は葉川を捉えた瞬間、明らかに硬度を増した。

葉川は眉をひそめ、訝しげに問いかける。

「こんなとこで突っ立って、何してんだ?」

西崎は葉川の問いを完全に無視し、射抜くような視線を杏奈に固定した。

「なんでLINE、返さなかった」

杏奈ははっとして、慌ててスマホを取り出した。画面には、十数件の未読メッセージと不在着信...

ログインして続きを読む